手早くヘルメットを身につける。そのまま、床を蹴った。
「キラ! 気をつけろよ」
 そんな彼女の背中に向かってフラガが声をかけてくる。
「わかっています」
 そう言い返すと、真っ直ぐに自分の機体へと向かった。そのまま、コクピットへと体を滑り込ませる。
 彼女のその動きを確認してからフラガは控え室へと戻っていった。
「大丈夫。この船もガモフも沈めさせない」
 言葉とともに操縦桿を握りしめる。
 ゆっくりと、慎重にカタパルトへと機体を移動させていく。
 機体を固定したところで、発進シークエンスが開始された。久々のそれに、キラの顔に緊張が走る。
 逃げ出したい。
 しかし、逃げ出すわけにはいかない。
 その葛藤と戦うのは、いつものことだ。
 だが、それも発進の合図が出るまでのこと。C.I.Cの声が耳に届くと同時に、彼女の表情は引き締められた。
「キラ・ヤマト。出ます!」
 言葉とともに、機体が飛びだしていく。
 全身をGが襲う。
「……しばらく、実戦に出てなかったから……感覚が鈍っているかな?」
 それに顔をしかめながら、キラは呟いた。
『心配しなくていい』
 その時だ。彼女の耳に柔らかな優しい声が届く。
『君のフォローは私がする』
 落ち着かせるように続けられた言葉に、キラは少しだけ顔をしかめる。彼に聞かれるとは思っていなかったのだ。
「……はい」
 そう言い返しながらも、彼の手を煩わせないようにしないと……と思う。
『君を戦場から遠ざけていたのは私たちのワガママだからね』
 だから、戦場でキラのフォローをするのも自分の役目だ……と彼は付け加えた。
「ですが」
『君を守りきれないほど、私は弱くはないよ』
 それに、と彼は意味ありげな笑いを漏らす。
『他にもフォローが期待できそうだ』
 それはどういうことなのだろう。ミゲル達がこちらに来られるはずはないのに、とキラは首をかしげる。
 しかし、それを確かめている時間はなかった。
「……あれは、MA?」
 それとも、MSなのか。そう言いたくなるような異様な機体がモニターに映し出されている。
『どうやら、こちらに新型を取られた腹いせに開発したようだね』
 いや、それは違うのでのはないか。そう言い返したい。だが、つっこんでいる場合ではないと言うこともわかっている。
「とりあえず、何とかしないと」
 そう言いながら、キラはライフルの照準を合わせた。
『そうだね。まずは、挨拶をしないとね』
 楽しげにそう言いながら、クルーゼの機体もまた同じようにライフルを構えている。
『さて、ビームが効くか……それとも、実弾か。検証しないとね』
 できれば、足を止められればいいのだが。その言葉を合図に、キラは引き金を引く。
 一条の光が虚空を切り裂いた。



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最遊釈厄伝