いったい、いつまでこの緊張が続くのか。 そう考えてはいけない立場なのだ、とわかっている。しかし、さっさと終わって欲しい。そう心の中で呟いたときだ。 「ラクス嬢?」 誰かが驚いたようにこう呟いたのが耳に届く。 「ラクス嬢。すまないが、ここには……」 「申し訳ありません、ザラ様。ですが、今、ここでなければいけないのです」 パトリックの言葉を遮って彼女はこういった。 「ラクス……では?」 シーゲルは事前に何かを聞かされていたのか。顔をしかめながら問いかけている。 「はい。証拠を掴みましたわ」 その言葉に、忌々しいと心の中ではき出す。 「N・ジャマーキャンセラーのデーターを、誰が地球軍に流したのかの」 その瞬間、周囲の者達がざわめきを漏らした。 「その報告は聞いていたが……本当に、犯人を?」 即座にユーリが問いかけてくる。 「はい。アクセス記録は巧妙に消されておりましたが……以前から、監視システムを別に運用しておりまして、そちらにはしっかりとデーターが残っておりました」 だから、逆に特定がしやすかった。 もっとも、その程度では言い逃れされかねない。 絶対に反論できない証拠を掴むために、今まで時間がかかったのだ。そう言い返してきたのは、特務機関の人間だ。 しかし、そのようなものまであごで使えるとは、いったいラクス・クラインの権限はどこまで広がっているのだろうか。 「……私は、そのような報告は受けていないぞ」 不意に、パトリックがそう言ってくる。 「それは変ね」 そんな彼に向かって、直ぐにルイーズが言葉を投げかけた。 「わたしのもとにはしっかりと届いているわ。あなた達もそうでしょう?」 そのまま、彼女は他の最高評議会議員へと確認するように視線を向ける。それに、パトリック以外の者全員が頷いて見せた。 「……つまり、私の所にだけ届いていない、と言うことか」 彼はそう言って眉根を寄せる。 次の瞬間、彼は視線を自分たちへと向けてきた。途中で報告を握りつぶせるものは他にいない、と判断したのだろう。 いったい、この状況をどう切り抜けるべきか。 おそらく、仲間達の助力は望めない。自力で何とかしなければいけないのだ。 だが、自分の立場であれば何とかなる。そう思って、さりげなく端末を取り出す。このようなときのために準備していたことが役立つとは思わなかった。そう考えながら、移動を開始する。 「どこに行くおつもりかな?」 だが、そんな彼の行く手を遮るようにデュランダルが立ちふさがった。その笑みがかんに障る。 「何か、非常事態が起きたようだからな。確認に……」 そう言い返す。 「あなたの身の上に、ですか?」 からかうように彼はさらにこういった。 「残念ですが、ここから出られても逃げられませんよ」 ついでに、あなたのお仲間も皆、身柄を確保させて頂いています。彼はそう続ける。 「……デュランダル?」 「既に、証拠は掴んでいる、とラクス様がおっしゃっておられましたでしょう?」 そう言って彼は手首を掴んでくる。 「放せ!」 「お断りします。ここであなたに下手な行動を取られると、色々と支障が出ますからね」 ユウキ隊長、と彼は続けた。しかし、それで大人しくするわけがないだろう。 第一、相手は訓練を受けたことがない文官だ。 だから、と逆に掴まれている腕を動かして彼の体を投げつける。 「ユウキ!」 彼のそんな行動を咎める声が周囲から飛んできた。しかし、それはもうどうでもいい。 自分は、地球軍を勝利に導くためだけにここにいるのだ。 「青き清浄なる世界のために!」 こうなったら、一人でも多くのものを道連れに、とホルターから銃を抜こうとする。しかし、それよりも早く、銃弾が彼の体を貫いた。 |