「出来た」
 キラはこう呟くと、満足そうな笑みを浮かべる。だが、直ぐにその表情は引き締められた。
「まだ、発射されてないよね?」
 ムウ兄さん、とその表情のままフラガを振り仰いだ。
「報告が来ていないからな」
 だから、大丈夫だろう。そう彼は言ってくれる。
「なら……間に合ったかな」
 言葉とともにエンターキーを押す。
「送信、完了、と」
 うまくいってくれればいいけれど……とキラは小さな声で付け加える。そうすれば、余計な被害を出さずにすむから、と続けた。
「大丈夫だって」
 そんな彼女の肩を叩きながらフラガが告げる。
「お前が失敗したことはないだろう?」
 みんな、それを知っているからこそ任せたのではないか。そう言われて、キラは小さく頷き返す。
「なら、あいつに連絡を入れてやれ」
 それから指示を仰ぐんだな。そう言いながら彼は今度は頭の上に手を移動させた。
「髪が乱れます!」
 やめてください、とキラは訴える。
「気にするなって。多少髪が乱れようが何をしようが、キラは可愛いから」
 そう言う問題ではない。そう思うが、彼は聞く耳を持ってくれているだろうか。多分、聞き入れてくれないだろうな。そう考えて小さなため息を吐く。
「ともかく、隊長に報告をしますから」
 だから、と告げれば彼は納得をしたというように手を放す。気を遣ってくれたのか。その時にさりげなく髪の乱れを直してくれた。
 そうできる、と言うことはやはり彼はそれなりに経験を積んでいたと言うことか。
 クルーゼとレイのことはわかっているが、他の人々がどのようなことをしていたのか、自分は知らない。
 だから、とキラは口を開く。
「これが終わったら、色々と聞かせてくださいね」
 端末を操作しながらそう告げる。
「あぁ。わかってるって」
 その時はカナードも呼んでやれ。そう付け加える彼にキラは小さく頷いて見せた。

 お互いに機体の中にいる以上、顔が見えるわけがない。
 だが、何故か敵の困惑が伝わってくる。
「……何かあったか?」
 それとも、誰かが何かをしたのか。ライフルの照準を合わせながらミゲルはこう呟く。
「何か、想像が付いたぞ」
 きっとまた、キラが何かをしでかしたのだろう。その結果がこれか、と考えた瞬間、口元に笑みが浮かぶ。
「なら、俺が負けるわけにはいかないな」
 必ず、勝利をもぎ取ってやる。
 そのためには……と考えながら、引き金を引く。
 一瞬遅れて、虚空に閃光が走った。その瞬間、誰かの命が失われたのは否定できない事実だ。
「……悪いな」
 名も知らぬ誰かに向かってこう呟く。
「俺は死ぬわけにはいかないんだ」
 もっとも、相手もそう思っていたのではないか。ただ、自分の方がその思いが強かっただけだろう。
「さて……他のみんなは無事か?」
 とくに、オコサマ達は。そう呟きながら、一瞬だけ識別信号を確認する。とりあえず、数は減っていないようだ。
「……ヴェサリウスも無事。ついでに、キラも出撃していない、と」
 なら、さっさと終わらせるだけだ。
「……どれが旗艦だろうな」
 それを叩くか。それとも、と考えた瞬間だ。モニターにクルーゼからの指示が表示される。
「さすがは隊長」
 タイミングがわかっている、とミゲルは笑う。そして、機体の向きを変えた。



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