兵士達が命を賭けてプラントを守ろうとしている。
 それなのに、自分の保身をはかるために大切な故国を危険にさらすなんて、とラクスは眉を寄せた。
「許せるはずがありませんわ」
 同胞の命はただ一人のための道具ではない。
 一人一人が同等の権利を持つ存在だ。だから、と彼女は掌を握る。
「もちろんです」
 デュランダルがそう言って頷く。
「あのような存在は、皆にとって害悪にしかなりませんね」
 皆という言葉が《キラ》と聞こえたような気がするのは錯覚ではないだろう。だが、自分も彼女を大切だと思っているから咎めるつもりはない。
 ただ、積極的に同意できないのは、自分にとって見れば彼女よりも《プラント》と言う存在の方が少しだけ重いのだ。
 それでも、あのバカを排除すればキラにとっても障害が一つ減る。
「そうですわ」
 この戦いさえ終われば、キラがザフトに縛られることはないのではないか。そうすれば、彼女は個人としての幸せを掴むことが出来るだろう。
「だから、さっさといなくなって頂きましょう」
 今であれば、それほど大きな混乱を引き起こさないですむのではないか。
「そうですね」
 笑みを浮かべながらデュランダルは頷く。それを合図にラクスは歩き出した。

 ラクスに与えられた部屋の中をカガリは歩き回っていた。
「落ち着け。出産を待つ父親でもあるまいし」
 そんな彼女に向かって、ミナがからかうように声をかけてくる。
「父親って!」
 確かに、自分の言動は男っぽいかもしれないが、そう言われるとショックだ……とカガリは心の中で呟く。
「実際、そう見えるのだから仕方があるまい」
 しかし、ミナはさらに笑みを深めるとこういう。
「仕方がないだろう。心配なんだから」
 キラが自分で《軍人》と言う立場であり続けることを選んだと言うことはわかっている。そして、彼女をクルーゼと――不本意だが――ミゲルが絶対に守ると言うこともだ。
 しかし、何があるかわからないというのも戦場だ。
 だから、とカガリは続ける。
「ムウも傍にいる。それに、あの二人もそろそろキラの側に着いているはずだ」
 だから、何も心配はいらない……とミナは笑う。
 つまり、ギナとカナードはさっさと抜け出して戦場へ出て行ったと言うことか。
「……いつの間に……」
 あきれていいのか、それとも……とカガリは呆然と呟く。
「あれらは、既にMSの操縦を身につけているからな。戦場でも何の問題もあるまい」
 それに、いざというときに、ザフトとは関係なく動ける人間が必要なのではないか。そう思って止めなかったのだ、とミナは言う。
「おそらく、ラウ達もそれは予測しているはずだ」
 でなければ、監視がレイ一人と言うことはあり得ないからな……と彼女は続ける。
「……ずるい」
 それに、カガリは思わずこう言ってしまう。
「私だって、キラを守りたいのに!」
「だが、お前では撃墜されるだけだ」
 その呟きにミナがあきれたようにこういった。
「……それは……」
「あの二人は、今までにも非公式に戦場に出ている。キラやラウでなければ負けないだろうな」
 さらり、ととんでもないセリフを言われたような気がするのは錯覚だろうか。
「まさか」
「本当だ。ウズミも見て見ぬふりをしていた」
 そもそも、地球軍のMSを作り出したのはモルゲンレーテだ。その技術を自分たちのために流用したとしてもおかしくはないだろう。
 そう彼女は口にする。
「……ずるい……」
 そう言うことならば、自分だって……とカガリは口にした。
「今しばらく待て。現在、お前やムウが使えるようなシステムを構築中だ」
 キラが基本だけは作ってくれていたからな、とミナは口にする。
「本来であれば、あの子の手を煩わせることはしたくなかったが……仕方があるまい」
 彼女はそう付け加えた。
「そう、だな」
 ため息とともにカガリも頷く。
「だから、落ち着いて待っていろ」
 それがカガリの役目だ。その言葉に、渋々ながら彼女はソファーに腰を下ろした。



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