戦場の空気はこんなにも張りつめたものだっただろうか。 操縦桿を握る掌に汗が滲んでいる。 それを自覚しながら、アスランはそう考えていた。 「戦場なら、今までに何回も経験しているのに……」 いったい、何が違うのだろうか。 それとも、と唇をかみしめる。 今まで自分たちが経験してきたのは《戦場》ではなかったのか。 確かに、それは否定できない。 「……だからといって、今更、逃げ出すわけには、いかない」 自分は望んでこの場に立っているのだ。だから、と真っ直ぐに目の前の光景をにらみつける。 「アスラン・ザラ。出る」 そのまま、こう告げるとイージスを発進させた。 同じように、他の者達も次々と出撃をしていく。その光景をクルーゼはブリッジから静かに見つめていた。 「さて……」 目標はどこにいるだろうか。 まだ報告は来ないが、キラが失敗をするはずがない。しかも、今は キラはまだ彼のことを思い出したわけではないらしい。 だが、カガリの言葉から判断をして、彼の存在は――多少忌々しいが――キラの深層意識にしっかりと根付いているはずだ。 だから、彼の助言であれば受け入れるはず。 「あの子は、他人を守ろうとして自分のことをおろそかにしてしまうからね」 傍に付いている人間が色々とフォローしなければいけないのだ。 「私が付いていられるのが一番いいのだが……」 それは難しい。そして、ミゲルも今は他の者達のフォローへ付いている。 だから、あの男しかいなかったのだ。 自分に言い聞かせるように心の中でそう呟く。 「隊長!」 その時だ。ブリッジクルーが呼びかけてくる。 「何だね?」 「ヤマトから連絡です。地球軍の暗号コードが判明したそうです」 どうするか、と彼は言外に問いかけてきた。 「直ぐに、味方の艦へ伝えろ」 そうすれば、隊長達がそれぞれの判断で部下に指示を出すだろう。下手に自分が指示を出さない方がいいに決まっている。 クルーゼの言葉に彼はすぐに頷き返した。そのまま、即座に指示された行動に移る。 「アデス」 それを確認してから、即座に艦長へと声をかけた。 「既に人選はすんでおります。直ぐに作業に入れるかと」 事前に作戦を放してあったからか。打って響く鐘のように即座に言葉を返される。 「目標の位置がわかり次第、ミゲル達へ連絡を」 重点的にそれを叩かせろ、と彼は続けた。 「わかっています」 その言葉に頷き返すとクルーゼは自分も出撃しようかと体の向きを変える。そして、床を蹴ろうとしたときだ。 「……ヤマト?」 本気か? と言い返している声が耳に届く。それにクルーゼは動きを止める。 「どうかしたのかね?」 行く先を変えてそちらへと近づいていく。 「ウイルスを送信してもいいか、と彼女が……」 どうやら、何か考えがあるらしいのだが、と彼は困惑した表情で振り向いた。 「私が確認しよう」 キラのことだ。少しでも被害を少なくしようと考えているのではないか。そして、失敗する可能性は少ないだろう。 しかし、確認しないまま許可を出すわけにはいかない。 「キラ?」 いったい、どのようなウイルスを作ったのか。言外にそう問いかける。 『ミストラルが搭載しているものを切り離すシステムを殺そうかと思うのですが……』 そうすれば、少なくとも核ミサイルを発射できなくなるだろう。だが、特攻までは止められないが。キラはそう言い返してくる。 「なるほど。面白そうだね」 好きにしなさい。そう付け加えた言葉の裏に、そうしている間は彼女をMSに乗せなくてすむと思っていたことは否定しない。 『はい』 それは彼女もわかっていたのではないだろうか。だが、直ぐに返事を返してきた。 |