戦端が切られたのはポアズだった。
 そこには、ハイネ達が配属されているはず。だが、彼の生死について確認している余裕はミゲル達にはない。
「我々の役目は、敵を殲滅することではない。核が搭載されていると思われるミサイルを、本国に向けて発射させないことだ」
 以前の時も成功させた。だから今回も失敗するはずがない。クルーゼはそう告げる。
「もっとも、連中にしてもバカではないから、対策は取っているはずだ」
 その点だけは気をつけるように。そう言って彼は笑みを浮かべた。それは、キラに向けるものではない。もっとどう猛な、獲物を見つけたときのけだもののそれに見える。
 もっとも、自分だって同じような笑みを浮かべているはずだ。
「……キラは?」
 周囲を見回しながら、アスランが怪訝そうな表情を浮かべている。
「そう言えば、あいつの姿が見えないな」
 出向したときにはいたはずなのに。そう言ってイザークも周囲を見回している。
 そんな二人につられたのか。残りの二人も怪訝そうな表情を浮かべていた。
「キラなら、今、地球軍の暗号コードの割り出し中だ」
 仕方がないな、と思いつつミゲルは口を開く。
「こう言うときには、まず、それがキラの役目だからな」
 彼女が実際に戦場に出るのは一番最後だ。
 MSで戦うことができるものは他にもいる。しかし、戦場で敵艦にハッキングできる人間は、クルーゼ隊ではキラだけだ。
「敵の情報が入手できれば、それこそ、的確にMSを配置することが出来る」
 無駄な戦いをする必要がなくなるだろう、とミゲルは続けた。
「あぁ。それであの方も一緒にいらしたのですね」
 納得したというようにニコルが頷く。
「エンデュミオンの鷹、か」
 イザークが忌々しそうにそう言ったのは、彼のそんな態度が許せないからか。真実を知らない以上、その反応は当然なのだろう。しかし、と思いながらミゲルは視線をクルーゼへと向けた。
「戦後の部下達の処遇と引き替えの行動だよ。不本意だが、私も彼と同じ立場であれば、同じような判断をしたかもしれない」
 彼は静かな声でそう言う。
「どちらにしても、我々に協力してくれるナチュラルが増えることはよいことだと思わないかな?」
 クルーゼのこの言葉に、イザークは何かに気が付いたという表情を作る。
「ともかく、だ。生き残ることも重要な任務だ。決して無理はしないように」
 いいな。その言葉にその場にいた者達は全員頷いて見せた。

 そのころキラは、ヴェサリウスの一室で、必死にキーボードを叩いていた。
「……とりあえず、何とか敵のマザーに入らないと……」
 入ってしまえばいくらでも手段がある。だから、と思う。しかし、敵もそれなりの対処をしているのか、かなり手強い。
 だからといって、諦めるわけにはいかないのだ。
「落ちつけって、キラ」
 その時だ。フラガがこう言いながら彼女の肩に手を置いた。
「フラガ大尉」
 そんな彼に向かってキラはこう呼びかける。その瞬間、フラガが盛大にため息を吐く。
「俺は地球軍じゃないって」
 できれば、もっと違う呼び方をしてくれ……と彼は続ける。
「昔はもっと可愛い口調で違う呼び方をしてくれたのに」
 さらに彼はこんなセリフまで口にした。
「ひょっとして、あいつの悪いところが移ったか?」
 年長者を年長者とも思っていない、と付け加えられても、誰のことを言っているのか、直ぐには判断できない。はっきり言って、ミゲル以外のキラの近しい男性陣は、彼のことを平然と呼び捨てにしているのだ。
「……ひょっとして、ラウ兄さんのこと、ですか?」
 おずおずとキラは問いかける。
「他に誰がいるんだよ」
 あれだけ性格の悪い人間が、と彼は続けた。
「……性格、悪いですか?」
 確かに、よくからかわれている。しかし、それは親愛の表現なのではないか、とキラは思っていた。
「なるほど。キラの前ではイイ兄貴だったわけね」
 まぁ、そうでなければ預けたことを後悔ていたかもしれないが……と彼は続ける。
「だけどな。戦場であいつが立てる作戦は、はっきりいてえぐいぞ」
 それでなければ勝ち抜けなかったのだろうが。
「だから、大丈夫だ。多少時間がかかっても、その間ぐらい、あいつが持ちこたえているって」
 焦って失敗するよりも、時間がかかってもイイから確実性を優先しろ。彼はそう言いたかったのだろう。
「わかりました」
 その言葉に、肩から力が抜けたような気がする。
「ムウ、兄さん?」
 そして、こう付け加えた。その瞬間、彼が本当に嬉しそうな表情で笑う。と言うことは、昔の自分は彼のことをそう呼んでいたのだろう。
 実際、どこか懐かしい感じがした。



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