いったい、どこに敵の伏兵が潜んでいるのかはわからない。
 だが、それをあぶり出している時間が自分たちにないこともわかっていた。
「大丈夫。後は私たちの仕事だ」
 言葉とともにデュランダルが彼の肩を叩いてくる。
「だから、君はキラを頼むよ」
 そのまま、彼はこう囁いてきた。
「今更言われなくても、それは当たり前のことだ」
 微苦笑と共にそう言い返す。
「だが、今回ばかりはあの子を戦場に出さずにはいられないだろうが……」
 不本意だが、とため息を吐く。
「あちらも総力戦ならば、仕方があるまい」
 だが、出来るだけあの子の手を汚させたくない。そう考えてしまうのは、自分のワガママなのだろうか。
 同じような年齢の子供達をためらうこともなく戦場に送り出しているのに、と心の中で付け加える。
「必要なのは、あの子の手を汚させないことではなく、その後のフォローだろう?」
 デュランダルは静かな口調で諭すようにこう言ってきた。
「残念だが、それが出来るのは君だけだ」
 自分は戦場に行くことは出来ないから、と彼は続ける。
「そうだな。君には君にしか、私には私にしかできないことがあるか」
 そして、キラを安全な場所に置いておくことだけが守ることではない。
 最初からわかっていたことなのに、何故か見えなくなっていた。その事実を指摘されたようで面白くはない。だが、気付かない方が厄介だったと言うことも事実だ。
「と言うわけで、あの三人の監視も頼む」
 苦笑と共にクルーゼはそう言った。
「……ものすごく厄介だと思うのは、私の錯覚か?」
 即座にデュランダルが言い返してくる。
「頑張ってくれ」
 レイにも手伝わせればいい。あの子も、そろそろその程度の苦労をしても構わない年齢ではないか。そう続けた。
「……そう言うことにしておくが……止めきれなくても妥協してくれよ?」
 ため息とともにギルバートが言葉を口にする。
「必要なのは、止めたという事実ではないかな?」
 小さな笑いと共にそう言い返す。
「……そうくるか」
 あきれたような視線が向けられる。
「そのあたりのさじ加減は、ラクス様がわかっておいでだろうからな」
 彼女の判断に任せればいい。そうも続ける。
「そう言うことにしておこう」
 お手上げ、と言うように、彼は両手をあげた。
「と言うことで、皆で無事に帰ってきたまえ」
 そのまま、彼は続ける。
「無論だ」
 言葉とともにラウはわざとらしく敬礼をして見せた。

 次第にプラントが小さくなっていく。その光景を、キラは静かに見つめていた。
 そんな彼女の傍に誰かが近づいてくる気配がする。いったい誰だろう、と思って視線を向ければ、明るい金髪が見えた。
「ミゲル?」
 ひょっとして、呼び出しに気付かなかったのだろうか。慌ててそう問いかける。
「ちょっと、気分転換」
 だが、彼はそう言いながら、キラの側に降り立った。そして、そのまま手を伸ばして彼女の体を背後から抱きしめてくる。
「きっと、帰って来ような」
 そのままの体勢で、彼はこう囁いて来た。
「うん」
 その言葉に、キラも頷き返す。
「でないと、ラクスに恨まれる」
 その他にも、今、あそこで自分たちを待っていてくれる人に、と続ける。
「ラクス様は怖いよな」
 苦笑と共にミゲルは抱きしめる腕に力をこめた。
「大丈夫。絶対帰るって」
 その言葉に、キラは小さく頷く。そして、体の前に回された彼の腕にそっと触れた。



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