こんな風に、あれこれ準備に追われていた日々に強引に終止符を打たれた。
「隊長!」
 キラが慌てたように駆け込んでくる。その後をニコルも同じような表情で付いてきた。
「何を見つけたのかな?」
 二人の表情から何かを察したのだろう。クルーゼは静かな表情で問いかけてくる。
「……地球軍が月から出撃をしました」
 ニコルが感情を抑えているとわかる静かな声で報告の言葉を綴った。
「それと……どうやら、こちらの機密が向こうに漏れているようです」
 それも、最重要機密が、とキラが続ける。
 これに関しては、ある程度予測していたことだ。
「連中の戦艦に、核ミサイルが積み込まれています」
 しかし、これはまったく予想もしていなかったセリフだと言っていい。
「キラ?」
「N・ジャマーキャンセラーのデーターがあちらに渡った、と考えていいかと」
 現在、それに関しては捜索中です……と彼女は続ける。だが、それは彼女の権限を越えているのではないか。
「ラクスが」
 そう言いかけたときに、さらに追い打ちのようにこう言われてしまった。
「……ラクス嬢か……」
 キラに出来ないことも、彼女であれば大丈夫だろう。
 しかし、とクルーゼは顔をしかめる。
「まさか、最重要機密があちらに渡るとは、ね」
 そして、それを使ってまた、あの日々を再現しようとしている。そう言えば、あれを阻んだのはキラだった。しかし、今回も、とは……と思うと、ため息を吐きたくなる。
 いったい、彼女と世界の行方は、どれだけ複雑にからみつけられているのか。
「ともかく、だ。詳しいデーターを渡してくれるかな?」
 それを持って、上に掛け合ってくる。そう言いながらクルーゼは立ち上がった。
「あぁ。ミゲルに出撃準備をしておくように伝えておいてくれ」
 その後で、二人は休養を取るように……と続ける。
「ですが……」
「後は私の仕事だ。それに、いつ出撃をしても大丈夫なように体調を整えておくことも大切な任務だよ」
 こんなことで、二人を失うわけにはいかないのだ。そう続ければ、キラは不承不承ながら頷いてみせる。
「まぁ、可能なら、ラクス嬢のところで彼等がおいたをしていないか。それだけ確認しておいてくれるかな?」
 彼等――特にサハクの双子とカナード――が手を出したら、絶対にただではすまない。むしろ、被害が大きくなりかねない、とため息混じりに付け加える。
「……はい」
 それに言葉を返すキラの頬が引きつっていたのは、クルーゼの見間違いではないだろう。
「頼んだよ。君以外に頼めないことだからね」
 他のものの言葉では、あの三人を煽ることになってしまう。こうなれば、フラガがまだ収容所にいることだけが救いだろうか。
「それと……そうだな、あの男にも協力させるか」
 地球軍の暗号コードの一つや二つ、知っているはずだからな……と呟く。それを名目に自分の手元に呼び寄せるのもいいだろう。
「お気をつけて」
 そう考えている彼の耳に、キラの静かな声が届く。
「もちろんだよ。君の花嫁姿を見るまでは死ぬつもりはないからね」
 くすくすと笑いながらそう告げる。
「……隊長、キラさんのお父さんみたいですね」
 しかし、予想外の所から流れ弾が飛んできた。もっとも、その内容は受け流せる程度だ。
「小さい頃からキラの面倒を見てきたから、当然の気持ちだと思うが? まぁ、その時には父親役はギルに押しつけるつもりだが」
 自分よりも年上の彼に、と続ける。
「……まだ先の話です」
 と言うよりも、まだそこまで関係が進んでいない! とキラは叫ぶ。
「……嘘!」
 あのミゲルが、とニコルが驚愕の言葉を口にする。
「ふむ。どうやら、きちんと約束を守ってくれているようだね」
 しかし、クルーゼは違う。どういうことか、とキラが視線だけで問いかけてくる。
「この戦争が終わるまでは自重するように、と頼んでおいたのだよ」
 終わったなら、妥協しよう。そう言えば、キラは少し不満そうな表情を作った。そんな表情も可愛いと思ってしまう。
「何。直ぐだよ」
 今回の戦闘で勝敗が決する。そして、自分たちは負けるつもりはないのだ。だから、と言えば彼女は小さく頷いてみせる。
「そのためにも、厄介ごとを片づけてくるよ」
 そう言いながら手を差し出せば、キラは一枚のディスクをその上に乗せた。



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