事前にどのようなことがあろうとも、シミュレーションに入ってしまえばミゲルは強い。
 もちろん、ハイネも負けてはいない。しかし、使い慣れないOSではどうしても押され気味になってしまう。
「あいつ……マジで八つ当たりをしているな」
 ハイネがため息とともにこう呟く。
「まったく……大人げないんだから」
 キーボードを叩きながら、キラは言い返す。
「まぁ、ちょーっと煽ったからな」
 色々な意味で、と彼は苦笑と共に告げる。
「だって……」
「お前の場合は、それでいいんだよ」
 男を振り回すのも女性の仕事、と言いながらハイネはペダルを踏み込んだ。そうすれば、モニター上の機体は休息に位置を変える。だが、その機体ぎりぎりの所をビームがかすめた。
「相変わらず、イヤミだね……」
 しかも、スピードが上がっている。さすがは『黄昏の魔弾』と言ったところか、とハイネは苦笑と共に告げた。
「装備がエールだから」
 エンターキーを押しながらキラは言い返す。
「ハイネと、一番相性がいいみたい」
 そう言いながら、視線をハイネへと向けた。
「とりあえず、修正したよ」
 一言、そう告げる。
「了解。さて、どうかな」
 即座に彼はOSを立ち上げ直した。そのまま、軽く機体を動かしている。
「さっすが、キラ」
 修正されている、と笑いながらミゲルへの反撃を開始した。
「あいつも、いい加減、パターンを変えろよな」
 昔と同じ、と彼は呟く。
「それ、フェイク」
 引っかかると怖いよ、とキラは言い返す。
「マジ?」
 まったく、とハイネが眉根を寄せたのがわかった。
「うちの隊長に、一番最初に直されたもん、それ」
 自分も、だけれど……と苦笑と共に付け加える。もっとも、アスラン達に関してはミゲルがその役目を担ったようだが。だから、彼等はいつまで経ってもアカデミー気分が抜けないのだろうか、と心の中だけで付け加える。
「なるほど。それも隊長の役目、と」
 覚えておかないとな、とハイネは頷く。
「と言うことで、そろそろ、けりをつけた方がいいのかな」
 今のところ、不具合はでていない。しかし、ミゲルの機嫌は最悪な状況になっていそうだから、と彼は笑う。
「別に、ハイネじゃないけど……こんなことはいつもなのに」
 何で今回だけ、とキラは首をかしげた。
「それが微妙な男心なんだよ」
 苦笑と共にハイネはこう言い返す。
「……って、マジかよ!」
 あいつ、これがデーター取りのためのシミュレーションだって、わかっているんだろうな、と彼は続ける。
「多分」
 でも、彼は彼なりに何かを考えているのだろう。キラはそう言ってため息を吐く。
「それにしても、ランチャー装備なんて」
 一番嫌いだって言っていたくせに……と呟く。
「まぁ、火力は一番だけどね」
 それとも、バッテリーが切れたのかな? と首をかしげた。しかし、それならばソードの方がミゲルの戦闘スタイルには合っているような気がするが。
「どちらにしても、あちらさんは本気だってことか」
 ったく、といいながら、ハイネは楽しげだ。
「キラ。つっこむから……万が一の事態に備えとけよ」
「了解」
 キラの言葉を合図に、彼は操縦桿をめいっぱいひいた。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝