キラは手早く準備をしていく。
「……恐かった……別の意味で」
 彼女の背後でハイネがため息混じりにこういった。
「たんにからかわれただけだろう」
 本気でやる気ならば、彼の場合、有無も言わせることがない。辛うじて選択権を与えられるとすればキラだけだ。そう言ってミゲルは笑う。
「まぁ、それなりに実力があると判断されたんだろうよ」
 でなければ、クルーゼは冗談でもそんなことは言わない。付き合う時間が無駄だ、と考えるからだ。
「ってことはなんだ? 俺が『お願いします』と言ったら……」
「隊長が本気で付き合っただろうね」
 もっとも、その時でもミゲルが呼び出されただろうが。キラはそう口にしながら立ち上がる。
「やっぱ、二対一か」
 結局、そう言うことか……とミゲルがため息を吐く。
「キラだけだもんな。一対一で隊長に付き合ってもらえるのは」
 昔から、と付け加えたのはアカデミー時代のことを思い出しているからだろう。
「今は、あっさりとやられるけどね」
 ヘリオポリスにいるときに、まったく触れられなかったのは痛かったか。それとも、実戦経験を積むことが出来なかったからだろうか、と首をかしげる。
「だから、付き合ってもらえるとも言うけど」
 ある程度まで戦えるようになまってしまった技術を鍛え直さないといけないから。キラはそう言って微笑む。
「ミゲルだと、いつまで経っても終わらないしね」
「そうなんだよな。ったく、ブランクがあってそれかよ」
 自分の努力は何なのか、とミゲルがぼやく。
「実戦はしていなかったけど、ゲームはやってたから」
 自分で作ってモルゲンレーテに渡したものだ。それのシステムをちょっと改造して、MSのコクピットに似た装置で動かせるようにして……とキラは笑う。
「……あの、それって……」
 不意に脇からニコルが口を挟んでくる。その後に彼が続けたゲームの名前に、キラは小さく頷いて見せた。
「ライセンス料や何かは、おじさまが管理してくれているはずだから、大丈夫だよ」
 権利関係は丸投げしてある、と続ける。
「お前な……」
 何と言えばいいのかわからない、と言う表情でハイネが呟く。
「あきらめろ。相手はキラだ」
 自分はもうなれた、とミゲルが言い返す。
「アカデミーにある奴も、どうせ隊長経由だろうし」
 どこに行っても、キラが大人しくしているわけはないのだ、と彼は続けた。
「何が言いたいわけ?」
 頬をふくらませながら彼女は聞き返す。
「どこに行っても、俺を楽しませてくれるってことだ」
 本当に、といいながら彼はさりげなくウィンクをしてくる。
「……そんなんでごまかされると思っているんだ」
 まったく、とキラは言い返した。
「本気だけどな、俺は」
 平然と言い返してくる彼に、何と言い返せばいいのか。本当に、と思う。
「……ハイネ」
 準備できたよ、と代わりにどこかあきれているような楽しんでいるような表情を作っている相手に呼びかける。
「了解」
 即座に彼は歩み寄って来た。
「狭いかもしれないけど、我慢してね」
 そのままシミュレーターに乗り込む彼の後に続きながらこう言う。
「キラ?」
 何故、お前まで……とミゲルが慌てたように問いかけてくる。
「だって、ハイネのOSの修正しないといけないでしょ。昔のくせでざっと組んだけど、微調整はしないと」
 ここでやった方が早い。そう言えば、ミゲルは呆然と言うのがふさわしい表情を作った。
「心配するなって。キラに手を出そうなんて考えないから」
 さらに追い打ちをかけるようにハイネが言葉を投げつける。
「お前なぁ!」
 それに、ミゲルが忌々しそうにこう叫び返してきた。



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