「ハイネって、隊長になるんだ」 同期では初めてではないだろうか、とキラは思う。 「まぁ、お前らもダコスタと違って、棚ぼたみたいなもんだがな」 この状況で、クルーゼとバルトフェルドの副官を引き抜くわけにいかないだろうから……と彼は口にした。 そうなのだろうか。そう思ってクルーゼへと視線を移動させる。 「確かに、君達にいなくなられると私が困るね」 もっともて、手放す予定はないが。そう言って彼は微笑む。 「バルトフェルド隊長も同じだろうね」 ダコスタがいなければ隊が回らないのだとか。だから、バルトフェルドもダコスタを手放さないだろう。 そして、自分たちにはその程度のワガママを許される立場にある。 「逆に、俺はちょーっと煙たがれたらしくてさ。これ幸いと追い出されたわけ」 仕方がないことかもしれないが、とハイネは苦笑を浮かべた。 「それはいいんだけど、問題なのは回されてきた新型で……何か、OSがイマイチなんだよ」 自分的に、と彼は続ける。 「で、クルーゼ隊長が試作機を使っていらっしゃると聞いたからさ」 当然、キラが手を出したOSを使っているだろうな……と思ったのだ。そう言われて、だいたいの事情が飲み込めたような気がする。 「でも、あれは隊長のくせにあわせてかなりカスタムしてあるよ?」 ハイネとクルーゼのくせは違うから、とキラは口にした。 「わかっているが……それでも、デフォルトよりマシかな、と」 流石に、部下を殺すようなマネは本意ではない。だから、少しでもフォローが出来る環境を整えておきたいのだ。そう彼は言った。 「キラ」 その言葉に、興味をひかれたという表情で彼は呼びかけてくる。 「はい」 「彼のくせは覚えているかな?」 君も彼の訓練には付き合ったのだろう? とクルーゼは続けた。 「それは覚えていますが……」 「なら、修正して渡しなさい。その位ならかまわんよ」 その程度であれば、直ぐだろう? と彼は続ける。 「修正だけならば、直ぐですが……いいんですか?」 クルーゼの機体にはさりげなく機密が隠されていたりするのだが、と言外に聞き返した。 「そのあたりのさじ加減も、君に任せるよ」 ひょっとして、面倒なことは全部押しつけるつもりなのだろうか。そう思わずにいられない。 「あちらの方はニコルに任せておけばいいだろう?」 当面は、と言われてしまう。 ダメだと言えば彼を信頼してないと言うことになるし、とキラは一瞬悩む。だが、直ぐに頷いた。 「と言うことで、ハイネ。シミュレーションに付き合ってね」 気持ちを決めてしまえば、後は実行に移すだけだ。 「……いいけど、シミュレーション?」 「そう。ミゲル、呼び出すから」 シミュレーターである程度設定を固めてから実機に載せる方が楽だ。そう言って微笑む。 「そうすれば、目の前で不具合がでたときに修正できるし、説明も出来るでしょ」 ついでに、アスラン達にとって見ればいい勉強になるのではないか。 「それとも、隊長の方がいい?」 クルーゼが相手だと、レベルが違いすぎてチェックできないかもしれないが……とキラは首をかしげた。 「未だに、僕とミゲル二人がかりでも三回に一回しか勝てないんだよね」 ちょっと悔しい、と素直に付け加える。 「君達のくせはわかっているからね。だが、ミゲルがストライクを使うようになればどうかな?」 あれの機体のポテンシャルを最大限に生かし、そして、キラが的確にフォローすれば、とクルーゼは笑いながら口にした。 「さて、どうする?」 その言葉に、ハイネが頬を引きつらせる。 「ミゲルでいいです……」 その表情のまま、彼はこういう。 「クルーゼ隊長のお仕事をこれ以上邪魔するのは申し訳ないです」 さらに付け加えられた言葉にクルーゼが意味ありげな笑みを浮かべる。 「おや。それは残念」 いったい、どこまで本気で言っているのか。キラにもそれはわからなかった。 |