いったい、何故、彼がここにいるのか。キラはそう思って首をかしげる。
 確かに、彼が生き残っていてくれて嬉しい。だが、今は声をかけられても困るのだが、とそう心の中で付け加えた。
「なんだ。喜んでくれないのか?」
 ダコスタ相手の時は喜んでいたと聞いたのだが、と彼はからかうように付け加える。
「嬉しくないわけじゃないけど……今、急いでいるから、ごめん。ハイネ」
 とりあえず、すこしでも早くクルーゼの元に戻らなければ。そう考えてこういう。
「心配いらないって。俺も、とりあえず、クルーゼ隊長に用事があるから」
 ニヤリ、と笑いながら彼は言葉を口にする。
「隊長に?」
「そっ」
 いったいなんだろう。そう思うが、心の中で『今聞いてはいけない』という囁きもある。そして、キラはそれに従うことにした。
「しっかし……ちゃんと女の子しているんだな」
 さっさと歩き出した彼女に向かって、ハイネはこう言ってくる。
「……何が言いたいの?」
 別に、男らしいとか女らしいとか気にしたことはない。確かに、ヘリオポリスにいた頃には少し気をつけていたが、と少しふてくされなから聞き返す。
「いや……ミゲルの奴が頑張っているのかな、と」
「何で、ミゲル?」
 彼は、家族以外でどんな自分でもいいと言ってくれる数少ない人間なのに、と思いながら首をかしげる。
「なんでって……お前な……」
 いくらなんでも、無知すぎないか? とハイネはため息を吐く。
「付き合って何年になるんだよ、お前ら」
 ますます訳がわからなくなってくる。
「何年って、三年目? まぁ、一年近く、実際には会えなかったけど」
 再会してからも、あれこれあってゆっくりと二人で過ごす時間はないに等しいが……とキラは続けた。
「……ミゲルに感心するよ、俺は」
 自分なら、とっくに……と彼がさらに言葉を重ねようとしたときだ。変な声と共に前につんのめっている。
「……えっ?」
 何が起こったのだろうか。そう思いながら背後へと視線を向ける。
「キラに余計なことを吹き込んでいるんじゃねぇよ!」
 そこには、拳を振るわせているミゲルの姿があった。そして、彼の斜め後ろにはアスランの姿も確認できる。
「どうしたの?」
 ある意味、珍しい組み合わせだな……と思いつつキラは問いかけた。
「……打ち合わせ、だよ。って言うか、マシューからのSOSでブリーフィングルームに移動していたんだが……まったく、何でこいつがいるんだか」
「隊長に用があるって言っていたよ」
 本人がまだ答えられる状況じゃない、と言うことで、キラはそう告げる。
「隊長に?」
「うん。詳しいことは聞いてないけど」
 聞かない方がいいような気もするし……とさりげなく付け加えた。
「そうだな」
 聞く必要はないか、とミゲルも頷く。
「それよりも、お前の方は?」
 これからどうするのか、と彼は言外に聞いてくる。その間にも、さりげなくハイネの背中を踏みつけているのはどうしてなのだろうか。
「ダコスタ君経由でバルトフェルド隊長から依頼されたOSの修正が終わったから、渡してきただけ。ついでに、あちらから情報を貰ってきたから、隊長に報告に行くところ」
 自分だけでは判断できないし、とキラは眉根を寄せる。
「こちらのデーターもあっちに送った方がいいのかな、とかね」
 分析してみると、色々とわかりそうなのだが、自分一人では手が回らないし……とため息を吐く。
「ニコル君が得意だって聞いたんだけど、本当?」
 そのまま、アスランへと視線を向けて問いかけた。その瞬間、驚いたように目を丸くしたのはどうしてなのだろうか。
「あ……あぁ……」
 そして、静かに頷いてみせる。
「あいつが、俺たちの同期で二位だった」
 アスランが静かな声でそう言い返してきた。落ちつきを感じさせるそれに、キラは安心する。どうやら、少しだけ彼の中で自分に対する感情が落ち着いたのではないか。そう思ったのだ。
「ちなみに、一位は誰だ?」
 ミゲルの足のしたから興味深そうな声が飛んでくる。
「……俺」
 少しためらった後、アスランはこういった。
「あぁ、それでニコルか」
 誰かさんはさぼった分の仕事が山積みだもんな、とミゲルがからかうように言葉を口にする。
「ともかく、そのあたりのことは、俺からニコルに話しておくから」
「うん。じゃ、僕は隊長に報告に行くね」
 でも、それはどうしよう、とミゲルの足元へと視線を向けた。
「……キラに変なことを吹き込まないって言うなら、同行させるが……そうでないなら、このまま放り出すか」
「それは困るんだが……」
 この時期だから、余計に……とハイネは訴える。
「じゃ、話題を新型の話だけにするからさ」
 だから、妥協してくれ……と続ける彼を、ミゲルは仕方がなさそうな表情で解放をした。



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最遊釈厄伝