「本当に、君達は……」
 あきれたような口調でクルーゼは言葉をはき出す。
「今がどのような状況なのか、わかっているのかな?」
 さらに彼はそう続けた。
「……すみません。こいつがちょっと許せないセリフを口にしてくれたので」
 ため息とともにミゲルがこう言い返してくる。
「許せないセリフ?」
 珍しく怒りすら感じさせるその声音に、クルーゼは思わず聞き返す。
「撃墜されても言いそうです、こいつは」
 即座に返された言葉に、納得をする。
「なるほど……確かに、それは許せないね」
 言葉とともに視線をアスランへと向けた。
「今すぐ、辞表を書くかね? アスラン・ザラ」
 そしてこう問いかける。
「隊長?」
 予想もしていなかったセリフなのか。アスランは目を丸くしながら彼に呼びかけてくる。
「それとも、不名誉除隊のほうが好みかな?」
 直接それには答えを返さずにさらに言葉を重ねた。
「何故、でしょうか」
 流石に『不名誉除隊』という一言は聞き逃せなかったのだろう。彼は少しだけ厳しい声音で聞き返してくる。
「他のクルーを危険にさらした。それだけで十分ではないかね?」
 こう言えば、アスランは意味がわからないという表情を作った。
「自分は、別に……」
 その表情のまま、彼はこう告げる。本当に意味がわかっていないのか、と逆にあきれたくなってしまう。
「君は生き残ることを考えていない。つまり、フォーメーションを組ませても、敵の攻撃を支えきることはしない、と言うことだ」
 その結果、他の者達がどうなるか。それも考えていなかったのか……とクルーゼはアスランをにらみつける。
「それとも、個人的感情の方が優先なのかな?」
 言外に、ミゲルやキラも道連れにしたいのか……と付け加えた。
「そんなことは、考えていません」
 アスランはその言葉にこう言い返してくる。
「ただ……欲しいものが手に入らないとわかった以上、生き残る気持ちにもなれない。それに、それが一番、あの男に対する嫌がらせになると考えただけです」
 その考えがまだまだ子供なのだ、とアスランは気付いているのだろうか。
 しかし、これは早急に何とかしなければいけない。でなければ、本当に隊内の戦死者が増えかねない。
 さて、何と言えば彼を説得できるか。クルーゼがそれを思案し始めたときだ。
「ばっかだな、お前は」
 ミゲルがこう告げる。
「ミゲル?」
「嫌がらせっていうのは、相手の反応を見なければ意味ないんだよ。つまり、死んでしまったら意味がないってことだ」
 もっと別の嫌がらせを考えろ、と彼は続けた。
「確かに、それは正しいね」
 相手の嫌がる顔を見なければ、嫌がらせは完成しない。だから、自分たちはこうして生きてきているのだ。いずれ、自分たちの正体をあの男に見せつけて衝撃を受ける表情を見る日が来ることを信じて、と心の中で呟く。
「まぁ、それが出来そうにないなら早々に辞表を書くのだね」
 キラは、まだ、アスランに対して友情を抱いているらしい。だから、アスランが死ねば悲しむだろう。
「これからどうするか、じっくりと考えたまえ」
 彼女のそんな表情は見たくない。だから、と心の中で付け加えながら、クルーゼは告げた。
「ミゲル」
「わかっています。これをしばらく監視していますよ」
 どのみち、機体の整備はしないわけにはいかない。そして、ストライクとイージスは、現在、デッキで隣同士に格納されているのだ。
「頼む。あぁ、他の者達のことも頼んでおこう。マシューとオロールにも声をかけておいてくれ」
 キラはこちらで作業をしているから、と付け加える。
「了解しました」
 それに彼は即座に頷いて見せた。



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