母の言葉が脳裏から離れない。 キラが好きならば、自分の感情を押しつけるのではなく、彼女の幸せを第一に考えるべきだ。 その言葉は理屈としては納得できる。しかし、感情が追いつかない。 キラに認めてもらう。 それだけが出逢ってからずっとアスランの中に一つの基準として存在していたのだ。 しかし、今はもうそれを望むことは出来ない。 キラの視線は、自分ではない他の人間に向けられているのだ。 「あのくそ親父」 全ての元凶は自分の だから、自分はキラの側にいない方がいい。 理性ではその結論を導き出せる。 しかし、ここでも感情が裏切ってくれるのだ。 それもこれも、全部、パトリックが悪い。彼がキラをどう思っているか。先日、偶然聞いてしまったのだ。 「あんな父を尊敬していたなんて」 忌々しい。そう呟く。 だから、自分は……と続けたときだ。 「アスラン」 今、一番聞きたくない声が耳に届く。 「お前、体調が悪いのか?」 だが、彼は彼なりに自分のことを心配してくれているらしい。もちろん、それが彼の義務だと言うこともわかっている。 「別に、何でもない」 だから放っておいてくれ、と言外に付け加えた。 「何でもないって顔かよ、それが」 あきれたようにミゲルはこう言い返してくる。 「今、出撃を命じられたら、間違いなく死ぬぞ、お前」 さらに彼はこんなセリフも付け加えた。 「そんなことは……」 「ないと言えないだろうが。まったく……顔洗って、ついでに鏡で自分の顔を見てこい」 ため息混じりに告げられた言葉に、アスランは顔をしかめる。 彼の言葉に、自分をからかうような響きはない。と言うことは、実際にそう思わせるような表情をしている、と言うことなのだろう。 「撃墜される、か」 小さなため息とともにアスランは呟く。 「それもいいかもな」 ほとんど無意識のうちに出た言葉だ。 次の瞬間、ミゲルの遠慮ない拳が後頭部におとされた。 「……ミゲル?」 いったい、何を……とアスランは口にする。 「お前、そんなことをして誰が喜ぶと思っているんだ?」 いい加減にしろ、と彼は本気で怒りぶつけてきた。 「少なくとも、悲しんでくれるような人間はいないだろう?」 レノア以外、と続ける。 ラクスは、あくまでも国から押しつけられた婚約者だ。仲間達だって、たまたま一緒になっただけだろう。キラだって、自分がいなければせいせいするのではないか。 そう続ければ、今度は蹴りが飛んでくる。それはアスランの腹部に食い込んだ。 「すねるのもいい加減にしろ!」 三つや四つのガキじゃないんだから、とミゲルは崩れ落ちたアスランを見下ろしながら告げる。 「お前がいなくなれば、誰だってショックを受けるに決まっているだろうが!」 特にキラは、と彼は続けた。 「そんなことはないだろう。あいつが好きなのはお前じゃないか!」 自分ではない、とアスランは言い返す。 「恋愛感情だけじゃないだろうが! 好きという気持ちは」 しかし、ミゲルは即座に反論をしてきた。 「何でラクス様やカガリ嬢ちゃんがお前にキラを諦めさせようとしたかわかってないだろう」 「……俺がキラにふさわしくないから、だろうが」 「それだけならば、キラが一言『嫌い』と言えばいいだけじゃないのか?」 キラがそれをしなかったのは、どうしてか。それを考えろ、とミゲルはさらに続ける。 「うるさい!」 何を言われても素直に受け止められない。それは、ミゲルがキラを手に入れた存在だから、だ。 自分が望んでも得られなかったものを手にしたくせに、と反発心しか出てこない。 その気持ちのまま、アスランは反撃を開始した。 |