そんな、ある意味穏やかな日々もいつかは打ち切られる。
「……地球軍が?」
 数多くの戦艦が月軌道に集約しているらしい。その報告に、クルーゼも顔をしかめた。
「確認しますか?」
 ハッキングをすれば直ぐにわかることだ。だから、とキラは問いかける。
「いや。それは情報局の方でしているはずだ」
 だから、二度手間になってしまうだろう。そう彼は言い返してきた。
「もちろん、君が調べてくれる情報が一番信用できるが」
 そう付け加えられて、キラは首をかしげる。
「二度手間がどうのこうの、というよりも皆が無事に勝利を掴む方が大切だと思いますけど」
 そのまま、彼女はこう告げた。
「機体の方は、僕が手を出さなくても大丈夫な程度にはなっていますし」
 だから、時間的には大丈夫だ。言外にそう続けた。
「情報を独り占めするのがまずければ、親しかったメンバーに流しますし」
 自分の趣味をよく知っているメンバーに、と付け加える。
「いや。その時は私が流すが……」
 問題はそこではない。クルーゼはそう告げる。
「……隊長?」
 では、何が問題なのだろうか。そう思ってキラは呼びかけた。
「いつ、戦闘になるかわからないからね。寝不足では撃墜される可能性が高い」
 キラを戦場に立たせるつもりはないが、だが、何があるかわからないのも戦場だ。キラが実戦の場に立つ可能性も否定できない。
「私たちは君を失いたくないのだよ」
 ため息とともに彼はそう呟いた。
「わかっています。でも、僕もみんなを失いたくないです」
 だから、とキラはさらに続ける。
「出撃が決まったら、その時点できっぱりと諦めます」
 さらにこう続ければ、クルーゼはまたため息を吐く。
「本当に頑固だね、君は」
 そして、そうなると自分が折れるしかない……と彼は続ける。
「私の見ている範囲内でなら許可をしよう」
 ミゲルの方がいいのだろうが、彼はストライクになれてもらわなければいけないからね。そう続ける彼にキラは小さく頷いてみせる。
「なら、直ぐに準備をします」
 そして、こういった。

 久々にあったアスランの表情が今までのそれとはどこか変わっている。
「……どうしたんだ、あいつ」
 思わずミゲルはこう呟いてしまう。
「何か、悪いものでも食ったのか?」
 そんなはずはないとわかっていても、こう言ってしまったのは、それだけ違和感を感じていたからだ。
 いったい、それは何なのだろうか。考えながら改めて彼の姿を確認する。
「あれで、本当に戦えるのか?」
 その答えを確認すると同時に、そう呟く。
 覇気がない。
 そうとしか言えない彼の様子に、不安を覚えるのだ。
「やっぱり、薬が効きすぎたのかね」
 その場に立ち会っていなかったから、自分はどのような会話が繰り広げられていたのかは知らない。しかし、あの後、すっきりとした表情のラクスとカガリの様子からかなりぼこぼこにへこまされたのではないか、と言うことは推測できた。
 それから今日まで彼の顔を見ていない。
 だから、その間に何があったのか、想像も出来ない。
「どうするかな」
 自分が口を出さない方がいいのではないか。そうは思うが、あの様子のアスランを見過ごしておくわけにもいかない。
 何よりも、キラにさせるわけにはいかないのだ。
「……とりあえず、声をかけておくか」
 その時の様子から対処を考えるしかないだろう。
「まったく……因果な立場だよな」
 こう呟きながら、ミゲルは立ち上がる。そして、彼の元へと歩き出した。



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最遊釈厄伝