「ダコスタ君、どうしたの?」
 いきなり訪ねてきた相手に、キラは目を丸くした。しかし、それ以上に驚きの表情を隠せないのは相手の方だった。
「……本当に、女の子だったんだな、キラは」
 全身を確認するように眺めながら、ダコスタはこう告げる。
「ダコスタ君?」
「あれだけ一緒に行動していたのに、気付かなかったとは……申し訳ない」
 こんなセリフを言われるとは思ってもいなかった。
「まぁ、ミゲルも話すまで気付かなかったし……」
 隠していた自分が一番悪いのだろうけど、とキラは心の中で呟く。
「あのころのキラは可愛かったけれど、ちゃんと男の子していたし」
 本人も気付いていないのであれば、それが当然なのかもしれないが……と彼は続ける。実は、知っていたのだが、だからこそ男の子らしくしていたのだ……とは言い出せない雰囲気にキラは苦笑を浮かべるしかできない。
「でも、それでもいいと言っていたのがミゲルだからね」
 男の子だろうと女の子だろうと、彼の場合キラがキラだったから好きになったんだろうし……と彼は笑う。
「そう言ってもらえて嬉しいけど……そんなことをいいに来たわけじゃないよね?」
 この時期に、とキラは首をかしげる。
「あぁ、そうだ。君の所の隊長の許可はもらっているんだが……実はOSを作って欲しくてね」
 元になるOSはあるのだが、今回の機体は特別だから……と彼は続けた。
「隊長の許可があるならいいけど……どんな?」
 とりあえず、自分にできるものか、とキラは首をかしげながら聞き返す。
「バクゥは知っているだろう?」
「砂漠仕様の、四本足のMSだっけ?」
 何か可愛いんだよね、あれ……とこっそりと付け加える。
「あぁ。犬っぽいという人もいるな、あれは」
 砂漠の場合、二本足よりも四本足の方が楽だから自然とああいう形になったわけだけど……とダコスタは笑う。
「ただ、そのせいで威厳がないと言われてね。隊長専用機を用意することになったんだよ」
 本人も来ているけど、と彼は続ける。
「なら、先にご本人に会ってから、機体を見た方がいいかな?」
 その方がどういう方向にカスタムすればいいか、わかるから……とキラは言った。
「元になるOSがあるなら、二三日中に完成できると思うし……そうすれば、テストもしてもらえるかもしれないし」
 そう言う彼女に、ダコスタは拝むように手を合わせる。
「ありがとう、この通りだ」
「別に、当然のことだよ」
 少しでも味方がユウリになるようなことをするのは、とキラは微笑む。
「で? その隊長さんはどこにいるの?」
「クルーゼ隊長の所だと思うが」
 この言葉に、一抹の不安を感じてしまったのは気のせいではないだろう……と心の中で呟いてしまった。

「……さて、ちょっと離れている間に色々と厄介な状況になっているようだね」
 まぁ、一番の驚きは、自分とクルーゼが顔をつきあわせていることだが……と壮年の男性――バルトフェルドが告げる。
 彼が《砂漠の虎》か、と、ミゲルは心の中で呟く。同時に、ここから逃げ出してはいけないだろうか……とも思う。
「とりあえず、妥協して頂くしかないが」
「わかっているよ。君のお姫様を借りる立場としては、なおさら、かな?」
 そう言う問題ではないだろう。こう言いたいのは自分だけだろうか。
「……せめて、ダコスタが一緒にいてくれれば……」
 もう少し居心地がいいのではないか……と口の中だけで呟く。
「まぁ、君が何故あんなことをしてきたのかわかったから、とりあえず、妥協するのはやぶさかではないよ」
 状況が状況だったようだしね、とバルトフェルドは笑う。
「地球に駐留している連中への根回しは引き受けよう」
 こちらとしても、さっさと終わらせたいというのは事実だからね……と彼はその表情のまま付け加えた。
「しかし、ラクス様を味方につけるとは……いったい、どのようなお嬢さんなのか。楽しみだね」
 ダコスタが迎えに行っているはずだが、と口にしながら、ドアの方へと視線を向ける。
「イザーク達に掴まっていなければいいんですが」
 ミゲルはついついそう言ってしまう。
「……ふむ。なら、君もいってくるがいい」
 早々につれてもどってくるように、と言う言葉は、ひょっとして自分の内心がばれていたからか。やはり侮れない人だな、と思いつつ、ミゲルはありがたく逃げ出させて貰った。



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