翌日になれば、任務が待っていた。 それに関しては文句はない。むしろ、仕事をしている方が気分的に充実してくれて嬉しいのだ。 しかし、と小さなため息を漏らす。 「……何で俺まで……」 ミゲルはそれと一緒に思わずこう呟いてしまう。 「諦めたまえ。いざというときにキラを優先できる人間が必要なのだよ」 カガリはフォローさえすれば自力でなんとかできるだろう。シーゲルに関しては、自分が何とかする。だから、とクルーゼは笑いながら付け加えた。 「……僕だって、自分でなんとかできます」 それに、ミゲルの隣を歩いていたキラが頬をふくらませる。 「一応、ザフトの一員ですよ?」 確かに、実技は苦手だけど……と付け加える彼女の言葉に自然と唇の端があがった。 「いいんだよ。お前は女性なんだし」 女性を守るのは男として当然だろう? とミゲルは問いかける。 「カガリも女の子だよ?」 キラがそう言い返してきた。 「……女の子だけど、彼女の場合なぁ」 「カガリの趣味は筋トレだそうだからね。女性としてはどうかとは思うが……それがあの子の身体能力の根底にある以上は、文句は言えないかな?」 いざというときには、彼女は先頭に立って戦わなければいけない立場の人間だ。クルーゼはそうも付け加える。 「……そう言えば……」 ふっと思い出したようにミゲルは口を開く。 「カガリちゃんって、何者? サハクっていったら、五氏族の一つだよな?」 そんな人間が――たとえ、それが他に目的があったとしても――わざわざ迎えにくるなんて、と付け加えた。 「言ってなかったっけ?」 そう言えば、とキラは首をかしげる。 「知らないぞ、俺は」 即座にミゲルは言葉を返した。 「ラクスが知っているから、他のみんなも知っているものだと思ってたよ。隊長が話されたものだとばかり……」 それに、あまり公にしない方がいいと思ったし……とキラは続ける。 「そう言えば、教えていなかったね」 あそこには強硬派のご子息もいたから、とクルーゼが苦笑と共に告げた。 「下手な人間に知られると、あの子も政治的に利用されかねない。キラのように」 もっとも、キラの場合、その前に自分がアカデミーへと入学させることでかなり雑音を排除したが……と彼は続ける。 「キラの才能は、開発局でも必要としているからね。そして、私は雑音を跳ね返せる程度の功績を挙げていた」 そこでミゲルを拾えたのは予想外のプラスだったが……と言うセリフはどこまで本気なのだろうか。 自分たちの同期にはダコスタやハイネと言ったハイレベルな人間が集まっていた。もちろん、そんな人間に負けるつもりはない。だが、紅と緑の差は大きいというのも事実だ。 「制服の色は関係ないよ。私たちにとって必要なのは、どのようなときでもキラのフォローが出来る人間だったからね」 それはほめ言葉なのだろう。多少の引っかかりは覚えるが、そう言うことで受け止めておく。 「それで、カガリのことだがね」 クルーゼはさりげなく話題を戻す。 「あの子のフルネームは、カガリ・ユラ・アスハというのだよ」 その瞬間、ミゲルにも事情がわかってしまった。 「それは……確かに、ラクス様に預けるのが一番安全ですね」 シーゲルは穏健派の代表だ。そして、ラクスはコーディネイターだろうとナチュラルだろうと関係ないと言い切れる剛の者――という表現は少し違うような気もするが――だ。 何よりも、クライン邸のセキュリティはプラントでも随一だといっていい。 「何でデュランダル様の所ではないのか、と思っていましたが……」 「放しておいた方が、万が一の時に対処が取りやすかったからね」 キラとカガリには少し申し訳なかったが、とクルーゼは付け加えた。 「僕もカガリも、そのことはわかっていますから」 ラクスの所であれば、連絡が取りやすいし、顔も出しやすかったからよかった……とキラは微笑む。 「そう言ってくれると嬉しいね」 クルーゼも彼女に微笑み返す。 本当に仲がいいよな、とミゲルは心の中で呟く。 「ミゲル?」 どうかした? とキラが即座に問いかけてくる。 「なんて言うのか……ものすごく怖いんだけど、個人的に」 キラの周囲にいる人間の過保護ぶりがこれだ。それにさらに輪をかけているような人間が出てきたら、と心の中で呟く。 「大丈夫じゃない……かな?」 「私もカガリも君のことは認めているからね……まぁ、がんばりたまえ」 何か、ものすごく大丈夫じゃないような気がしてならないミゲルだった。 |