「……だから、俺とキラはふさわしくないと?」
 自分のせいで、あの優しい二人が死んでしまった。それならば、傍にいて、一生償い続ける口実になるのではないか。
 アスランは心の中でそんなことを考える。
「それだけではないがね」
 クルーゼは平然と口にした。
「だが、キラにしてみれば君のことでこれ以上苦しみたくないと思っても当然のことではないかな?」
 休暇の度に『アスランの顔を見ているのが辛い』と口にしていた、と彼は言う。
「俺としては、さっさとあなたを嫌いになってくれれば、それが一番だったと思いますけどね」
 さらにレイがこう言ってくれる。
「そうすれば、あなたの存在で姉さんが悩まなくてもすんだと思いますよ」
 嫌いじゃないが、顔を見ているのが辛い。でも、と言っていたのだ。
「何よりも、あなたのせいで、姉さんはザフトに入らざるを得なかったんだ」
 さらに、彼はそう言う。
「どういう意味だ?」
 即座にアスランは聞き返す。
 キラの性格を考えれば、自分から進んでザフトに入隊するはずがない。誰かから強要されたのだろう、と言うことは推測できた。
 しかし、今までの話からそれはクルーゼではないか、と思っていた。だが、レイの言葉から違うような気がしてならない。
「ザラ様がそう指示をされたのですわ」
 さらりと爆弾を投下してくれたのはラクスだった。
「ラクス?」
「父は、キラにそのまま民間でプログラマーとしての才能を伸ばして欲しかったようですが……ザラ様は、キラの才能をザフト以外の者が手に入れるのを許せなかったようですもの」
 プラント籍を剥奪するとまで言われたそうですわ、と彼女は口にする。
「そうなったら、オーブに帰ってくればよかっただけなのに」
 本土は無理でも、アメノミハシラであればキラの安全は確保できるのに、とカガリはため息混じりに告げた。
「もっとも、出国も許されなかったんだろうな」
 プラント籍を剥奪されても出国を許されなければどうなるんだ? と彼女はラクスに問いかけている。
「収容所、ですわね。そこでなら、十分、ザラ様の目的は達せられますもの」
 しかも、彼はアスランとキラの関係を快く思っていなかったはずだ。
 その言葉に、アスラン本人が信じられない、と言う表情を作る。
「そんなはずはない!」
「本当ですわ。実際、ザラ様が何かのおりにキラに声をかけたことがありまして?」
 顔を見掛けても無視していたのではないか。そう言われて、アスランは記憶の中を探る。
 確かに、キラに声をかけていたのは母だけだ。
 だが、それはタイミングが合わなかっただけではないのか。
「証拠もないのに、俺にそれを信じろと?」
 自分からキラを取り上げたいだけではないのか。そう思いながら言い返す。
「……そんなに証拠が欲しいなら、いくらでも差し上げますわよ?」
 言葉とともにラクスがゆっくりと歩み寄ってくる。だが、そのまま彼の脇をすり抜けた。そして、その背後にあったレターケースを開く。
「好きなだけ、ご覧なさいな」
 そう言いながら、彼女はそこから分厚い書類の束を取り出して、アスランに差し出してくる。
「何なんですか、それは」
 そう言いながらも、受け取らざるを得ない。
「ゆっくりとどうぞ。それでも納得できなければ、あなたとキラを、わたくしがわたくしの権限で引き離させていただきますわ」
「その前に、私の権限で君を他の隊に移動させた方が楽かもしれないね」
 ラクスの言葉をフォローするかのようにクルーゼがこう言ってくる。
「隊にとって見れば、キラとミゲルの存在は欠かせない。だが、君レベルであればいくらでも代わりがいるからね」
 もちろん、その時はイージスは持っていって貰っても構わない。そうまで言い切られるほど、自分の存在は疎まれているのか。
 そして、その理由はこれらの書類の中にある、と言うことなのだろう。
「……いったい、何をしたんだ、父上は」
 それとも、全ての原因は自分にあるのか。
 そんなことはない。そう思いながら、アスランは書類へと視線を落とした。



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