一分近く経って、ようやく彼はクルーゼの言葉の意味を理解したのだろうか。
「殺された……?」
 それでも信じたくないのだろう。確認するようにこう呟く。
 だが、とカガリは心の中で言い返す。このセリフは、まだまだ序の口だ。
「そう。君の不用意な一言のおかげでね」
 さらに追い打ちをかけるようにクルーゼがそう言いきる。
「自分の?」
 よほど意外な一言だったのか。アスランは大きく目を見開いた。
 本当にこいつは何もわかっていない。いや、わかろうとしなかった、と言った方が正しいのか。
 目の前の存在にしか興味がない。
 それは悪いことではないのだろう。ただし、度を超さなければ、だ。
 アスランの場合、キラしか見えていない。
 自分の名前が持つ影響力も、だ。
 そのくせ、そのしわ寄せが全て《キラ》に向かっていたと、どうして気付かなかったのか。
「君は、キラ達の家にあったものを、他人に話したことがあったね?」
 クルーゼは静かな口調でこう問いかけている。
「どれの、ことでしょうか」
 確かに、あれこれ話をした記憶があるが……とアスランは素直に認めた。しかし、その程度のこと、と思っていることも否定できない。
「……写真の話だ」
 自分たちにとっては特別な――だが、知られるとまずい連中がいる――一枚の写真。その話をしただろう、とカガリは口にする。
「写真……?」
 しかし、アスランは直ぐに思い出せないと言うような表情を作った。
「と言うと、あれですか?」
 今のキラによく似た女性が、双子と思える赤ん坊を抱きしめていた、とアスランはようやく思い出したという表情で口にする。
「そう。あの写真だ」
 おそらく、キラはアスランが信用できると思って見せたのだろう。
 しかし、その信頼は裏切られたと言っていい。
「あの女性は……キラとカガリの実の母親だよ」
 そして、自分たちにとっては命の恩人だ。クルーゼがそう告げる。
「ですが!」
「カリダさんはその方の妹だよ」
 だから、キラを引き取ってくれたのだ。そして、カガリは父方の親戚に引き取られたのだ……と彼は続ける。
「コーディネイターとナチュラルの双子は滅多にいない。だから、目立ちすぎる、と判断されたのだよ」
 そのせいで、自分たちは離れ離れになった。しかし、月にいてくれた頃は、まだ、顔を見に行くことも出来たのに、と思う。それをアスランが壊してくれたのだ。
「ですが、それがどうして俺のせいなのですか?」
 意味がわからない、と彼は聞き返してくる。彼にしてみれば、その程度のことで、と言いたいのだろう。
「彼女とその夫を殺したのは、ブルーコスモスだから、だよ」
 そして、キラは今でもブルーコスモスの暗殺リストの上位に乗せられている。さらに重ねられた言葉に、アスランは絶句したようだった。

 目の前に、整然と並べられた砂時計が見える。
 正確に言えば、それらは砂時計ではない。あの一つ一つに、万を超える人々が暮らしているのだ。
「久々に、みなの顔を見られるね」
 これもケガの功名というのだろうか。
 こう言って黒衣の女性は微笑む。
「他の者達はどうでもいいが、キラの顔は見たいな」
 その女性とよく似た男性がそう告げる。
「前回は、俺だけ会えなかったから」
 あれは悔しかった、と彼は憮然とした表情で続けた。
「お前だけではなよ、ギナ」
 そんな彼に向かって、ロンド・ミナが苦笑を向ける。
「カナードも会っていないのではなかったかな?」
 この問いかけに、影になっている部分にたたずんでいた青年が静かに頷いて見せた。
「もっとも、ゆっくりと交友を深めている時間はないだろうが……あのじゃじゃ馬のことだ。どのみち、大人しく帰るとは言うまい」
 その間に、キラを構えばいいか。そう呟く彼女に、残りの二人は複雑な表情を浮かべていた。



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