「君は、自分にとって辛いことを自分の口から相手に告げられると思うかね?」
 本当に彼は――いや、彼の精神は、と言い換えるべきか――幼いままだ。
「……それは……内容によると思います」
 おそらく、彼自身にそんな経験がないから、だろう。こう言い返してくるのは。
 逆に言えば、彼自身が相手の気持ちになって考えるという訓練をしてこなかった、と言うことでもある。
 ザラ家の息子では、仕方がないのか。他のものならばそう言うかもしれない。だが、とクルーゼは心の中で続ける。
 それならば、ラクスはどうなのか。
 そして、カガリも、だ。もっとも、カガリの場合、自分たちがそうなるように教育してきた、と言えなくもない。
 そう考えると、やはり侮れないのは《ラクス・クライン》と言うことになる。
 アスランもそうだが、他の最高評議会議員の子供達も、どこか自分本位な面が見受けられるのだ。
「まだるっこしいですよ、兄さん」
 さっさと教えてしまえばいいのに、とレイが言ってくる。
「そうだな。でなければ、いつまで経ってもキラへの責任転嫁をやめない」
 相変わらず、カガリはアスランに関しては辛辣な評価を下す。だが、それは間違っていないと言うことも事実だ。
「誰がキラに責任を押しつけていると?」
 そして、それが気に入らないのだろう。アスランは即座に言い返す。
「あなたに決まっているではありませんか、アスラン」
 反発入れず、ラクスがそう指摘する。
「俺が、いつ、キラに責任を転嫁しました?」
 しかし、本気で言っているのだろうか、彼は。それとも、自覚をしていないだけか。
 あるいは、とクルーゼは小さなため息を漏らす。彼の中では、自分が常にキラの上に位置しているのかもしれない。
 だから、自分が何をしてもキラは許してくれる。だが、逆はあり得ないのだろうか。
「しているだろう。今だってキラ《が》話してくれなかった、と言っているじゃないか」
 聞かなかったのは誰だ、とカガリはつっこんでいる。
「話したくないことなら、キラは素直にそう告げたはずだ。それをしないで、勝手に判断をしたのはお前だろう?」
 それで、教えてくれなかったキラが悪いと言っていれば、意味がない。カガリはそう言う。
「そうですわね。少なくとも、幼年学校時代は話をする機会はたくさんあったはずですわ」
 だが、アスランはそうしようとしなかったではないか。ラクスもそう言って頷く。
「あなたが何をご存じなのですか?」
 自分たちのことを知らないくせに、とアスランは反論を口にする。
「知っていますわ。少なくとも、キラが教えてくれたことなら」
 自分たちの付き合いは、アスランが考えているよりも長い。ラクスは微笑みと共に告げた。しかし、よく見ればその瞳が笑っていないことがわかる。
「……ですが、俺との付き合いよりは短いですよね?」
 だから、口を出すな。彼はそう言いたいのだろうか。
「あら、長さよりも密度の方が大切ですわ」
 言いたいことを言える関係の方が、だらだら付き合っていたよりもマシだろう。そう言い返す。
「ですから、わたくしは、どうしてキラがプラントへ来られたのか。知っていますわ」
 アスランは知らないだろう、と言外に告げる。
 それが何かのスイッチを押したのだろうか。彼の表情が険しくなる。
「あなたも、俺とキラの間を裂こうとされるのですか?」
 そして、吐き捨てるように言葉を口にした。
「いいや、違うな」
 本当に何を考えているのだろうか。そう思いながらクルーゼは口を開く。
「ここにいる者達はみな、キラを守ろうと思っているだけだ」
 アスランのその考え方は彼女を傷つける。そう判断をしたからこそ、遠ざけようと思った。
「あの子と離れている間に、君が変わっていてくれれば、その時は改めて付き合いを始めればいい。そう思っていたのだが……残念なことに、君は少しも変わろうとしなかった」
 外聞だけはよくなったようだがね、と視線を向ける。
「どういう意味でしょうか」
「言葉通りだよ」
 アスランの疑問を、クルーゼはただ一言で切り捨てた。
「隊長!」
 もちろん、それでアスランが納得するはずがない。しかし、自分で気付かなければ意味がないことだ。
 だから、とクルーゼは話題を変えることにする。
「キラがプラントに来たのは……あの子のご両親が殺されたからだよ」
 この一言に、アスランの表情が凍り付いた。



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