「……あの、事件……ですか?」
 何のことだ、とアスランが聞き返している。
 そのこと自体、忌々しいと思ってしまうのは、きっと、キラの顔色が悪いからだろう。
「……ラウも少しは考えてくれればいいのに……」
 ぼそっとレイは呟く。
 この場で、最良の方法は、と考えれば一つしか思い浮かばない。その事実も忌々しい。
 しかし、それしかない以上、仕方がない。
 そうかんがえると、ゆっくりとキラとミゲルの傍へ歩み寄る。
「すみませんが、姉さんを連れて隣の部屋へ移動してもらえますか?」
 カガリかラクス、でもいいのだろうが、彼女たちはこれからラウが行うであろうことに参加する気満々だ。
 なぜなら、自分がそうだから……とレイは心の中で呟く。
「そちらに、ギルがいます」
 キラの主治医でもあるから、きっと適切な対策を取ってくれるはず……と続ける。
「それは構わないが……」
 だが、クルーゼの言っている内容も気になる、とミゲルは言外に付け加えた。
「キラ?」
 だが、それよりもキラの方を優先しなければいけない、と彼は態度で示す。こう言うところがクルーゼ達が彼を気に入った理由なのだろう。
「どうする?」
 移動した方が自分もいいと思うぞ、と告げる彼に彼女は小さく頷き返す。
 そのまま、彼はキラの肩を抱くときびすを返した。
「必要だと判断すれば、ギルが説明をすると思います」
 そんな彼の背中に向かって、レイはそう声をかける。
「必要だと思ったら、聞くわ」
 それに、ミゲルはこう言い返してきた。
 間違いなく、それはキラの気持ちを考えてのセリフだろう。そう言うところは、自分も好ましい思う。
 そんなことを考えているうちに二人はドアの向こうに消えた。
「さて」
 それを確認してからクルーゼが口を開く。
「君はどうするのかな?」
 アスラン・ザラ、と視線を彼に向ける。
「どういう意味でおっしゃっているのか、わかりません」
 しかし、彼はこう言い返してくるだけだ。
 本当にわからないのか。それとも、何か目的があってそう言っているのか。その表情からはは判断ができない。
 だが、そんな彼の態度が気に入らないと思うことも否定しない事実だ。
「隊長がおっしゃっている事件、と言うのにも思いあたるものはありません」
 彼はきっぱりとした口調でそう言い返す。
「なるほど……キラは、君に話さなかった、と言うことか」
 ため息とともにクルーゼは口にする。
「そして、君も聞かなかった、と言うことだね」
 確かに、アスランにとってキラ以外の人間は興味がないという証拠だろうね。そう告げる彼の言葉に冷たさが混じる。
「……キラのご両親のことでしたら、聞かない方がいいと判断しましたが?」
 だが、アスランにはアスランなりの主張があるらしい。
「それに、自分はキラが自分から話してくれるものだ、と信じていました」
 だから、自分のせいではない。そう言いたいのだろうか。
「……ですが、姉さんは聞かれない限り話そうとしないでしょうね。あなただけではなく、他の誰にも」
 ミゲルも知らないはずだ。言外に付け加えつつ、レイは口を挟む。
「わたくしも、キラの口からは聞いておりませんもの」
 カガリに教えて貰った、とラクスも告げる。
「結局、お前はキラさえいればよかったんだろう。だが、キラにとって、それは望まないことだ」
 それすらも気付かなかったくせに、とカガリは吐き捨てた。
「だから?」
 自分が何をしたのか、とアスランは言い返す。
 そんな彼にどのような態度を見せるのだろうか。そう思いながらレイはクルーゼへと視線を向けた。



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