ラクスの言っていることは正論だ。
 しかし、それを受け入れられるかどうか。それは別問題だ、とアスランは心の中で呟く。
「……と言うわけだ。さっさと向こうに行けば?」
 彼に追い打ちをかけるように、カガリがこう言ってくる。
「何故、お前に命じられなければいけない」
 気に入らない、とアスランは言い返す。
「決まっているだろう。キラが私の従姉妹だから、だ」
 従姉妹だからこそ、彼女を守る権利がある。もっとも、ここに彼女のきょうだいたちがいれば話は別だか、とカガリは笑った。
「もっとも、そうなっていたら、お前の面子は丸つぶれだろうけどな」
 苛烈だからな、と彼女はさらに笑みを深めた。
「その方がいいのか?」
「……別に」
 困らない。そう言いかけて、アスランは口をつぐんだ。
 確かに、自分は困らないかもしれない。
 だが、キラはどうだろうか。
「どうやら、納得していただけましたわね」
 ラクスが、どこか挑むような口調で問いかけてきた。
「ならば、付いてきてくださいませ」
 そう告げると同時に、彼女はきびすを返す。
 そのまま歩き出した彼女の後を、アスランは仕方がないと言った表情で付いていく。もちろん、カガリも、だ。
 しかし、キラだけはどこかためらうような表情を見せている。
「お前も立ち会わないと」
 そんな彼女を、ミゲルがそっと促している声が耳に届く。
「わかっているんだけど……」
 でも、とキラは不安を隠せないという口調で言い返している。
「俺がいるだろう? だから、心配するなって」
「……うん」
 彼の一言だけでほっとしたような色がキラの声に含まれた。
 その事実が気に入らない。
 それは自分の役目だったはずだ。それなのに、気が付けば、そのポジションにミゲルが収まっている。
 どうして、こんなことになってしまったのか。
 そう考えれば、答えは一つしかないだろう。
 そして、どうして両親が彼女の居場所を教えてくれなかったのか。彼等は知っていたはずなのに、と言う疑問もわき上がってくる。
「大丈夫。何があっても傍にいるから」
 そう考えていれば、さらにこんな言葉が耳に届いた。
「うん」
 嬉しげな口調でキラが言葉を返している。
 それすらも気に入らない。
 だが、同時にキラのそんな嬉しそうな声を聞いたのは本当に久しぶりだ、とも考えてしまう。
 幼年学校を卒業する直線のキラは、いつもどこか困ったような表情をしていたような記憶がある。
 それはどうしてだったのだろうか。
 てっきり、また誰かに何か言われたのではないか……と考えていた。だが、ひょっとしたら違う理由だったのかもしれない。
 ならば、何故、キラはその事実を教えてはくれなかったのか。
 そんな疑問がわき上がってくる。
 きっと、彼女は自分に心配をかけたくなかった、と言うのだろう。しかし、幼い頃はそんなことを言うような人間ではなかった。いつから、彼女は自分に対して遠慮をするようになってしまったのか。
「……わからないことだらけだ」
 アスランは口の中だけでそう呟く。
 その理由がわからないからこそ、キラは自分を選んでくれなかったのか。ふっとそんなことを考えてしまう。
 だが、直ぐにその考えを否定する。
 そんなもの、時間さえあれば解消できる。
 だから、問題があるのは自分を取り巻く環境だろう。それをどうすれば正しい方向へと変えられるのか。
 その第一歩であり、最大の障害は、やはり目の前の少女の存在だろう。
 どうすれば、彼女たちを納得させられるのか。アスランは、必死にそれを考えていた。



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