アスランの表情に、ラクスはあきれるしかできない。
「とりあえず、ここでできる話ではありませんわね」
 ただの幼なじみの会話ならばともかく、アスランがキラと交わしたい内容は人前ですることではないだろう。
「あなたのせいで、キラが悪く言われるようなことがあっては困りますものね」
 言外に、アスランの言動次第でキラがプラントにいられなくなる可能性を示唆する。
「幼なじみなのに?」
 少しも、それを重要視していないとわかる声音でアスランは聞き返してきた。
「ですが、それを知らない方も多いですわ」
 そして、アスランはザラ家の一人息子だ。そんな彼と二人だけで話していれば、周囲の者達に邪推してくれと言っているようなものではないか。
「口さがない者達なら、キラがわたくしと友人関係になったのは、あなたがねらいだったのではないか。そう言い出すかもしれません」
 それがさらなる邪推を産む可能性もある。
「最悪、クルーゼ隊長の功績にまで及ぶかもしれませんわね」
 疑う余地がないものでも、何でもこじつけるものはいるだろう。
 この言葉にキラが表情を変える。
「隊長の功績は、隊長だけじゃなく、みんなの命がけの働きがあってのことなのに……」
 そんなことを言い出すなんて、と彼女はその表情のまま付け加えた。
「まぁ、うちの隊は目立っているからな」
 何よりも、大きな功績がある。だから、それをねたんでいる連中がいたとしてもおかしくはないな」
 その中のいくつかはキラの功績だが、といいながら、ミゲルがそっと彼女の肩に手を置く。
 彼のその仕草に、キラがほっとしたような表情を作ったのを、ラクスは見逃さなかった。
「それと同じくらい、隊内に不協和音が出ているという噂もまずいんだけどな」
 キラの肩に手を置いたまま、ミゲルが言葉を重ねる。
「それでも、ここでだだをこねる気か、アスラン・ザラ?」
 真っ直ぐにアスランをにらみつけて、彼は問いかけた。
「返答次第では、こちらもそれなりの対処を取らなければいけなくなるぞ」
 一応、副官だからな……と言って表情を引き締める。
「そんなこと……」
「出来ないと思うか?」
 アスランの言葉を遮ってミゲルは言う。
「確かに、軍と関係のないところではお前の方が立場が上だ。しかし、ザフト内では違うぞ?」
 戦闘中に私情で動かれる可能性がある人間を排除する権利はある。
「誰が!」
 そんなことをするか、とアスランは言い返す。
「そう思えないから言っているんだろうが」
「確かに。私にもそう見えるな」
 彼の言葉に、カガリが頷いて見せた。
「わたくしにも、ですわ。何よりも、婚約者としての権利として、あなたとキラを二人で話をさせるわけにはいきません」
 アスランはどうでもいい、と言っては語弊があるかもしれない。だが、国から押しつけられた婚約者だ、と言うのは否定できない事実だ。
 しかし、キラは違う。
 自分が努力をして友人関係を築いたのだ。
 だから、どちらを優先するかとなれば、自分の手で手に入れた《友人》の方だろう。
「キラを貶めるかもしれない方と二人きりにさせるわけにいきませんでしょう?」
 にっこりと微笑みながらラクスは言葉を締めくくる。
「ラクス……」
 それに、キラが困ったような表情を作る。
「気にしないでくださいませ。状況によっては婚約者を変えられるかもしれないのが、婚姻統制ですもの」
 だから、キラがそのような表情を作る必要はない。
「それでも、決められた相手がいる以上、異議を申し立てる権利はありません。まして、わたくしとアスランの場合、婚姻統制という事情以上にクライン家とザラ家が結ばれる、と言うことのほうが重要なのですわ」
 たとえ、どのようなことがあっても婚約を解消できるはずがない。
 そうである以上、他に心に決めた方がいる相手に無理を強いる権利などないのだ。
「それがわからないような方は、ただのバカですわ」
 違うのか、とラクスはアスランへと視線を向ける。
「ザラ家に生まれたあなたに、それがわからないと言うことはありませんわよね?」
 この問いかけに、アスランは唇をかみしめた。



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