出かけた際に購入した――と言うよりも、ミゲルに押しつけられた――ワンピースに袖を通す。
「……ミゲルは『似合っている』っていってくれたけど……派手じゃないかな」
 鏡に映った自分の姿を見て、キラは思わずこう呟いてしまった。
「そんなことはない、と思うよ」
 次の瞬間、背後からこんな声がかけられる。
「ギルさん!」
 反射的に振り向きながら、キラは相手の名を口にした。
「お願いですから、驚かさないでください」
 この言葉に、彼は苦笑を浮かべる。
「驚かすつもりはなかったのだよ。だが、そろそろ時間だからね」
 遅れるわけにはいかないだろう? と続けられて、目を丸くした。
「そんな時間ですか、もう」
 てっきり、まだ余裕があると思っていたのに……とその表情のまま付け加える。十分、間に合うように余裕をもって支度をしていたつもりなのに……とさらに言葉を重ねた。
「残念だけどね」
 言葉とともに、壁に掛けた時計を指さされる。そこには、確かにそろそろ出かけないとまずいという時刻が記されていた。
「納得したようだね」
 キラの表情からそのことを読み取ったのだろう。デュランダルはそう言って微笑んだ。
「大丈夫。エレカは既に用意できているからね。後は君が乗り込むだけだ」
 その後で、ミゲルを拾ってラクスの元へ行けばいい。そう彼は続ける。
「……ギルさんとレイは? 一緒に行かないのですか?」
 クルーゼはザフト本部に顔を出してから行くと聞いてたが、とキラは首をかしげた。
「私たちはラウを拾ってから行くからね。別のエレカで出かけるよ」
 少し遅れるかもしれない。だから、気にしないで出かけなさい。彼は笑みを深めて言葉を重ねた。
「君が遅れると、ラクスさまは怒られるだろうし、カガリ嬢が残念に思うだろうね」
 さらにこう言われては、彼の言葉を飲まざるを得ない。
 カガリはともかく、ラクスは怒らせてはいけないような気がする。そして、彼女たちの怒りは自分ではなくミゲルに向けられることは明白だ。
 流石に、それは自分が嫌だと思う。
「わかりました。でも、出来るだけ早く来てくださいね?」
 何かいやな予感がするから、と付け加える。
「わかっているよ」
 デュランダルの微笑みに少しだけ苦いものが滲む。
「しかし……」
「なんですか?」
「予想以上に可愛いね、今日は。ミゲルくんの趣味の服だろうが、よく似合っているよ」
 きっと、ラクス達もそう言ってくれると思うよ……と彼は頷く。
「そうでしょうか」
「そうだよ。だから自信を持ちなさい」
 言葉とともに、彼はさりげなく手を差し出してくる。ここまで言い切られるとは、そうなのだろうか。そんなことを考えながら、キラはそっと彼の手に自分のそれを重ねた。

 キラの乗ったエレカが門へと向かっていく。
「と言うことで」
 それを見送りながらデュランダルは笑みを別のものへと変えた。
「準備は言いかね?」
「もちろんです」
 言葉とともにレイが傍まで歩み寄ってくる。
「せっかく作っていただいた機会ですから、徹底的にやらせていただきます」
 彼の言葉にデュランダルも頷く。
「確かに。少なくとも、ザラの血筋にあの子の存在を渡すわけにはいかないからね」
 もし、キラの持つ秘密がわかれば、アスランが彼女に執着するよりも厄介な状況になる。
「もっとも、アスランを諦めさせるカードはこちらにある。それでも妥協してくれなければ、ラクスさまのお手を煩わせることになるだろうね」
 できれば、それは避けたいのだが。しかし、全てはアスラン次第だろう。
「そうですね」
 キラのフォローはミゲルとカガリに任せておけばいい。レイもそう言って頷く。
「では、我々も出発しようか」
 そう言って足を踏み出せば、彼等の前に静かにエレカが滑り込んできた。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝