ミゲルの元にラクスからのメールが来たのは、その晩のことだ。 「……ラクスさまから、何だよ」 何かとんでもないことが書かれているのではないか。その気持ちのまま、メールを開く。無視できなかったのは、そんなことをすればどうなるか、わかっていたからだ。 「……まったく……アイドルは遠くから眺めているのが一番だよな」 本性は知らずにすめばよかったのに、とそう呟く。 それでも、と直ぐに思い直す。 彼女もキラのことが大好きだ。そして、キラのためにあれこれ手を貸してくれている。そう考えれば、あの本性も好ましいと思えてくるのは何故だろう。 それに、と心の中で呟く。 ラクスが意味もなく自分に連絡を寄越すはずがない。可能性があるとすれば、キラがらみのことではないだろうか。 「仕方がない。覚悟を決めるか」 これがキラからのものであれば、本当に喜んで中身を確認するのだが……と思いながらメールを開封する。 「……って言うか、これはラクスさまからじゃないのか?」 文面にざっと目を通して、ミゲルはこう呟く。 もちろん、全部が全部そうだというわけではない。だが、メインになっている部分はラクスの文体ではない。 「ってことは、あちらのお嬢さんかな?」 キラの従姉妹だというあの過激なオーブの、とミゲルは呟く。おそらく、自分に直接連絡がつけられなくて、ラクスを経由したのだろう。それならば、この内容も納得だ。 「しかし、どうするかな」 キラの所に顔を出すのは問題ない。むしろ、口実が出来たと喜びたいところだ。 だが、それで相手を刺激してはやばいことになるのではないか。 逆に言えば、それがなんとかできる状況だからこそ、つついてみようと言うことになったのかもしれない。 「まぁ、次の出撃の前に片を付けたいって言うのは同意だな」 でなければ、きっと、まずい状況になる。 最悪、誰がが命を落としかねない。そうなった場合、キラを戦場に立たせなければならなくなるだろう。 矛盾しているとはわかっている。それでも、ミゲルは彼女を戦場に出したくなかった。だから、そのために出来ることは何でもしようと思う。 「と言うわけで、詳しい計画を聞くか」 それからキラに連絡をしても遅くはないだろう。そう思いながら、ミゲルは返信を書き始めた。 同じようなメールはレイの元にも届いていた。 「……まったく、カガリ姉さんは……」 ため息とともにこう呟きを漏らす。 「俺としては、あいつも今ひとつ気に入らないんですが……でも、アスランよりも百倍もマシ、というのは事実ですからね」 そして、キラの中で自分はあくまでも《弟》でしかない。 もちろん、そのポジションに不満があるわけではない。むしろ、別れたら終わりという恋人や何かよりも、どのようなときでも無条件で受け入れてもらえる弟の方がいいと考えている。 それでも、ミゲルの存在を受け入れられるかどうかと言えば別問題なのだ。 「でも、姉さんのためですから」 妥協するしかないだろう。 「あいつは、ラウが認めた人間ですし」 だから、きっと受け入れられる。 そう思いながら、手早く了解の意を返す。 そのまま、それを送信したときだ。 「レイ、お茶にしようよ」 キラのこんな声が聞こえる。彼女からこう言ってくることは珍しい。 「はい、今行きます!」 だから、何もしないでくれ……とレイは続ける。 しかし、それは少し遅かったのではないか。 「きゃぁぁっ!」 何かが割れる音と共にキラの悲鳴が耳に届いた。 「姉さん、どうしたのですか!」 言葉とともにレイは立ち上がる。そして、そのまま廊下へとかけだしていく。 その先で何が待っていたのか。それはキラの名誉のために内緒にしておいた方がいいのかもしれない。そう考えてしまうレイだった。 |