「面倒くさい。さっさと婚約だけでも発表してしまえ」
 レイの報告を聞いたカガリがこう言ってくる。
「……だがね、カガリ。一応、こちらにも都合というものがあるのだよ」
 ため息とともにクルーゼがこう言い返した。
「同じ隊でカップルというのであればまだ許容されるが、婚約者となればね。どちらかを移動させなければいけない」
 しかし、どちらを移動させるにしても、激しい損失になってしまう。
 何よりも、自分の目の届かないところに行かれればフォローのしようがない。最悪、使い捨てにされかねないだろう、と彼は続けた。
「そう考えれば、まだ、現状で我慢して貰わなければいけないだろうね」
 もっとも、と彼は微笑む。
「ギルバートの協力で、二人のDNAの相性も見て貰っている。その判断がでるまで、アスランであろうと文句は言えない」
 第一、アスランとラクスのそれは《対の遺伝子》と言われるほどのものだ。キラとのそれがラクスよりも数値が高くなる可能性はない。そう付け加える。
「だが、キラは……」
「カガリ。それは秘密だろう?」
 誰が聞いているかわからないのだから、と少し厳しい口調で言った。その瞬間、カガリもしまったという表情を作る。と言うことは、無意識の言葉なのだろう。
「……思いついたことを直ぐに口に出すのはやめなさい」
 カガリの場合、それによって国益を損なうかもしれないのだから。そう続けた。
「わかっています」
 そう言って彼女は視線を落とす。
「ともかく、二人のことは心配はいらない。私たちだけではなくシーゲル様も協力してくださっているからね」
 アスランでも権力をもに言わせてあれこれすることは難しいだろう。
 問題は、実力行使に出ることだが……とクルーゼは続けた。
「まぁ、レイが傍にいるから、キラの方は大丈夫だろうね」
 後問題は、ミゲルの方だが……と彼は言葉を重ねる。
「彼の方は自力でなんとかして貰おう」
 その程度の対処が出来ないようであれば、それまでの男と言うことだ。この言葉に、カガリは苦笑を浮かべる。
「そうなったら、あいつがとんでもない行動に出かねませんよ」
 ただでさえ、自分だけオーブに残されたと言うことで文句を言っているのに。そう彼女は続けた。
「それも仕方がないことだ、とわかっているはずなんだがね、彼も」
 キラと彼が一緒にいれば、誰かが気付くかもしれない。
 同じ理由で、キラとカガリも一緒にいられないのだ。
「ともかく、要するにあのバカがさっさと諦めれば全て丸く収まるわけだよな」
 ラクスと相談をして、何とかするか。彼女はそう言って笑う。
「それもいいかもしれないが、あまり無理はしないように」
 国際問題にならないようにね、とクルーゼも笑った。
「とりあえず、毎日、門前でキラが出てくるのを待っているそうだよ」
 さらりと付け加えた言葉にカガリの表情が強ばる。
「ラウ兄さん」
 その表情のまま、彼女は立ち上がった。
「ラクスと連絡を取りたいのですが」
「メールアドレスはわかっているのだね?」
「えぇ」
「なら、そこの端末を使うといい」
 それならば、ザフトのマザーにはつながっていない。だから、カガリが使っても問題はない。クルーゼはそう続けた。
「お借りします」
 即座に彼女は端末を立ち上げる。そして、手早くメールを書き始めたようだ。
「さて……私の方もそろそろ本気で彼を叩きつぶす準備をしないといけないかな」
 おそらく、近いうちに地球軍との最終決戦が始まるだろう。その時に私情でフォーメーションを崩されては困る。
「部下を誰一人、死なせたくないと思うのは、指揮官として当然のことだからね」
 あれも一応、可愛い部下と言っていいのだろうか。
 だが、それ以上にキラが可愛い。彼女を守ることは自分の義務でもある。それ以上に、彼女の幸せを祈っているのだ。
「あの子の幸せを見ないうちは、私も安心できないからね」
 それに、あの人との約束だ。そう呟く。
「そう言えば、そろそろあれと話し合いをしないと」
 そちらの問題もあったな。そう思いあたった瞬間、無意識にため息がこぼれ落ちた。



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最遊釈厄伝