久々の休暇――と言うべきなのだろうか――と言っても、ゆっくりしていられない。
「……うん。それで大丈夫だと思うから……」
 本国を離れていたせいでたまっていたらしい作業をこなしていれば、あきれたような表情のレイに気が付く。
「姉さんが忙しいのはわかっていましたけど……少しは手を抜いてもいいと思いますよ?」
 こう言いながら、彼は目の前に紅茶のカップを差し出してくれる。
「でも、僕が手を抜いたせいで誰かの命が失われたなんてことになったら、いやだし」
 それに、これは知り合いから頼まれた分だから……とキラは言い返す。
「……それって、いいんですか?」
 自分の分のカップを手に、レイは直ぐ傍の椅子に腰を下ろす。
「隊長の許可は出ているから……」
 だから、大丈夫。この言葉とともにキラが微笑みを向ける。
「ミゲルも忙しいから、出かけてもつまらないし」
 ラクスはもちろん、カガリもスケジュールが詰まっているようだ。
「そのせいで、ギルさんが外出許可くれないんだよね」
 だから、することがない。仕方がないから仕事をしているのだ、と続けた。
「……姉さん……」
「仕方がないじゃない。僕の趣味が何なのか、レイだって知っているでしょう?」
 プログラミングとハッキング。
 後者は禁止されているようなものだから、出来るのは前者だけだろう。そして、それは仕事と同義ではないか。
「……失敗しましたね。他の趣味も押しつけておくべきでした」
 そうすれば、きっと、時間を潰すために仕事をしなくてすんだだろうに……とレイはため息を吐く。
「って言っても、他の趣味なんて作っている時間なかったよ」
 幼年学校時代は、アスランが傍にいたし。そう付け加えた瞬間、レイの表情が強ばる。
「元凶は、やっぱり、あれですか」
 そのまま、彼は吐き捨てた。
「レイ?」
 そんなに怒ることなのだろうか。そうは思うが、カガリやラクスの態度を見ていれば、アスランの言動がみんなを怒らせるのに十分なことだったらしいと推測できる。
 しかし、彼を振り切らなかった自分にも原因はあるのではないか。そう思わずにはいられないのだ。
「まったく……ラクスさまという立派な婚約者がいるのに、うちの前をうろちょろするなんて……本当にあきらめの悪い」
 しかし、レイが怒っているのは別のことだったらしい。
「いるの?」
 思わずキラはこう問いかけてしまう。
「午前中は確認しましたよ」
 暇ですね、と真顔で彼は言い返してくる。
「ともかく、家の中は安心だと思いますので……仕事に関しては、妥協します」
 でも、きちんと食事と休憩は取るように。そう告げる彼にキラは頷いて見せた。

 そのころ、アスランはデュランダル邸の前にいた。
「……まったく……面会も取り次いでくれないとは、何を考えているんだ」
 自分の立場を考えれば、断るなんてできないはずだ。それなのに、まるで門前払いのような扱いを受けてしまった。その事実が気に入らない。
 なら、キラが出てくるまで待つか。
 そう思っていたが、彼女が門の外はおろか屋敷から出てくる気配はない。
「……キラが度を超したインドア派だと言うことを忘れていたしな」
 昔はもっと出歩いていたような気がするが、と記憶の中を探ってみる。
「俺が連れ出していたのか」
 そう言えば、と思い出す。
 その時、キラは喜んでいただろうか。それとも……と考えて思い出そうとするが、直ぐにはでてこない。
 代わりに思い浮かぶのは、いつも浮かべていた、どこか困ったような微笑みだ。
 ひょっとして、いやだったのだろうか。そう考えてアスランは直ぐにその考えを振り切る。
「そんなことはない」
 キラが自分のことでいやな思いをしたことなんてないはずだ。アスランはきっぱりとした口調で呟く。
 だが、と直ぐに新たな疑問がわき上がってくる。
 それならば、キラはどうして自分に彼女が本当は女性だったと教えてくれなかったのだろうか。
 その理由がわからない。
 わからないと言えば、どうして彼女はミゲルを選んだのか。その理由も知りたい。
「……話がしたいだけなのに……」
 それだけですむかどうかはわからない。だが、今は彼女と話がしたい、とアスランは思う。
 だが、どうすれば話をすることが出来るだろうか。
「……キラ……」
 答えを求めるかのように、彼は小さな声でこう呟いていた。



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