「ともかく、着替えたいんだけど」
 一通り話が終わったところで、キラがこう言ってくる。
「何か、きついんだよね」
 パイロットスーツ、と付け加えれば、ミゲルは苦笑を浮かべた。それはキラの言葉のせいではなく、彼女が女の子だという事実を忘れていた自分にである。
「胸のあたりか?」
 その表情のまま、彼は問いかけた。それを耳にした瞬間、キラの頬が赤くなったのを見れば、答えは聞かなくてもわかるというものだろう。
「まだまだ、成長期だと言うことか」
 よかったな、と口にすればキラは首をかしげる。
「いいこと、なのかな?」
 それって、とそのまま口にしてきた。
「いいことに決まっているだろう?」
 少なくとも、自分が楽しい……とミゲルは耳元で付け加える。
 その意味がわからないはずがない。
「バカ!」
 反射的にキラにこう言われてしまう。
「そうだな。お前でなければセクハラで軍事法廷ものだな」
 笑いながら顔見知りの整備クルーもこう言ってくる。
「……いいじゃん、その位」
 こういう会話も今まで出来なかったんだから、とミゲルは笑いながら口にした。
「もっとも、スーツの件は早々になんとかしないとな」
 予備の奴を適当に引っ張り出してきただけだから、と表情を引き締めると告げる。
「そうだな。まぁ、そのあたりはこちらでなんとかしておくよ」
 隊長には報告するだろうが、と整備クルーも頷いて見せた。
「しかし、そうなるとやっぱり、あれには要注意か?」
 そう言いながら、彼は視線を移動させる。つられてその方向へと顔を向ければ、女性陣二人に何か懲らしめられているアスランの姿が見えた。
「……何をやらかしたんだ、あいつは」
 でなければ、あの二人が揃って攻撃をしているはずがないだろう。ミゲルはあきれたようにそう告げた。
「でも、カガリとラクスだから……」
 しかし、キラはそう考えていないらしい。
「特にカガリは、アスランの姿を見るだけで機嫌が悪くなるから」
 今も、そう言う理由で攻撃をしているのかもしれない……とため息とともに口にする。
「まぁ、今のうちに着替えてくるのがいいかもしれないな」
 控え室に行ってこい、とミゲルはキラの肩を軽く叩く。
「でも……」
「隊長には俺から言っておくから」
 でないと、アスランが控え室に押しかけかねないぞ……と付け加える。
「そうなったら、誰も彼女を止められないと思うしな」
 この言葉は否定できなかったのか。キラは小さく頷く。
「入り口までは、付き合ってやるから」
「うん、お願い」
 どこかほっとしたように彼女は微笑んだ。
「機体のチェックは任せておけ」
 報告はどちらだ? と整備クルーが問いかけてくる。
「僕の方に。修正をしてから微調整をした方が早いでしょう?」
 それに、何かあったときの対処のこともあるし。キラはそう告げる。
「わかりました」
 システムに関してみれば確かにその方が確実だろう。しかし、とミゲルは微かに顔をしかめる。
「無理はするなよ? オコサマ達の面倒も見ているんだから」
 ただでさえ、オーバーワーク気味なんだから……とその表情のまま付け加えた。
「大丈夫。みんながフォローしてくれるし」
 ミゲルも手伝ってくれるでしょう? と付け加える彼女に、当然だと頷いてみせる。
「問題は、何かあったときだけどね……」
 何もなければいいんだけど。そう呟く彼女にミゲルは即座に「大丈夫だ」と囁き返してやった。



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