アスランはそうそうにイージスのコクピットから滑り出た。 しかし、ストライクのハッチはまだ開かない。代わりに整備クルーが数名、ハッチの所まで移動しているのがわかった。 「……何か、不具合でもでたのか?」 OSを書き換えたばかりなら、その可能性も否定できない。しかし、とアスランは顔をしかめる。 「そんな機体に、俺は負けたのか?」 それは、自分が組み立てたOSに不備があったからか。あるいは戦略にミスがあったのか。 「……俺の技量が劣っているわけじゃない」 でなければ《紅》を身につけている資格がない。そう思う。 その時だ。彼の視界を見覚えのある緑の軍服を着た人影が横切っていく。 「ミゲル?」 それは間違いなく、あの機体を預けられているはずの人間だった。と言うことは、やはり、先ほどストライクを操縦していたのは彼ではなかったらしい。 そう考えると同時に、また先ほどの疑問がわき上がってくる。 「なら、誰なんだ?」 それを確かめようとアスランは彼の後を追いかけた。 「……何をしているんだよ、お前は!」 脇からこんな声が響いてくる。同時に、誰かが空を切って近づいてくる気配がした。 「いい加減にしろ!」 そう言いながら、その気配の主は拳を振り上げたらしい。 「二度も同じことを繰り返すわけがないだろう!」 言葉とともに、アスランはその攻撃を避ける。いや、避けたつもりだった。 「バカが!」 しかし、それは陽動だったらしい。腰の当たりにけりが入れられる。 「ぐっ!」 ここが低重力空間だったからだろう。威力がなかったことは幸いだと言っていいのか。 「無様ですわね、アスラン」 しかし、それも次に綴られた言葉が打ち消してくれる。 「……ラクス……」 何故、彼女までここにいるのか。 忌々しい思いのまま視線を向ける。 「まぁ、勘違いをなさっている方には、現実を見ていただく必要がありますでしょうけど」 そうすれば、彼女がこう言ってきた。 「勘違い?」 何のことだ、と言外に問いかける。 「キラ! 終わったか?」 その答えは彼女からではなく別の場所から与えられた。 「キラ?」 ミゲルの声に視線を移動させる。 「……嘘、だろう」 ハッチから出てきたのは、まさしくパイロットスーツに身を包んだキラだった。 と言うことは、先ほど自分が負けた相手は彼女だと言うことか。 「キラさんは、あれでもミゲル達の教官役だったそうですよ」 ニコルがそう教えてくれる。 「キラさんに勝てるのは、家の隊では隊長だけだそうです」 さらに彼はこう告げた。 「つまり、お前がキラを守るなんておこがましい、ってことだ」 一矢報いることも出来なかったんだしな、とカガリが笑いながら言ってくる。 「それ以前に、アスランではキラさんの邪魔にしかならないと思いますよ」 あれだけ説明をされていたのに、見事にその事実がアスランの脳裏から消えていただろう、とニコルが指摘の言葉を口にした。 「確かに……最初に説明されたよな。もう一人パイロットがいるって」 出向していたのが《キラ》ならば、彼女がそのパイロットと言うことになるよな。そう言ってきたのはディアッカだ。 「どちらにしても彼女も《紅》だ。しかも、我々よりもアカデミーに入学した時期は早い。そう考えれば、それなりの敬意を払うべきだろう」 実際、彼女の才能は感嘆に値する。イザークまでもがそう言った。 「そのために、あの方は努力なさっていましたもの。そもそも、アスランはあの方が幼年学校時代からザフトの開発局に協力をされていたことを知らないのでしょう?」 と言うよりも知ろうとしなかったのではないか。ラクスの言葉に、アスランは信じられないという表情を作る。 「いつ……」 そんなことをしていたのか。あのころ、自分たちはずっと一緒にいたのに。そう呟く。 「そのせいで、キラはかなり苦労されていたようですわよ。締め切りまでに作業が出来ないと」 だから、長期の休暇の時には遊ぶ間もなかったらしい。ラクスがそう告げる。 「と言うわけで、お前は必要ないんだよ」 キラの邪魔にしかならない。そう言われて『はい、そうですか』と頷けるはずなどない。 だが、それだからこそ、キラはアカデミーにはいることを強要されたのか、と言うこともわかる。 「……何で……」 自分にそれを教えてくれなかったのか。アスランはそう呟く。 「お前が聞く耳を持たなかっただけだろう」 だが、それすらもカガリはこの一言で切り捨ててくれる。 呆然としているアスランの視線の先で、キラがミゲルと額を付き合わせながら何か話し合っていた。 |