おかしい、とアスランは心の中で呟く。
 ミゲルとは何度もシミュレーションをしてきた。だから、彼のくせは飲み込んでいるつもりだった。
 しかし、今、ストライクが見せる動きはそれと違う。
「本当にミゲルなのか?」
 思わずこう呟いてしまった。
 だからといって、マシューやオロールではない。
 言っては何だが、彼等に自分が負けるはずがないという程度の自負はある。
 だが、目の前の相手には一撃をくわえることも出来ない。
「……誰なんだ?」
 ストライクはミゲルが使うことになっているはず。だから、テストも彼がすると思っていた。
 しかし、どうやら、今、ストライクに乗っているのはミゲルではない。ようやくその事実に思いあたった。
 だが、とアスランは思う。
 そうだとするのであれば、いったい誰なのか。
 クルーゼか、と考える。しかし、彼は今もヴェサリウスのブリッジにいることを確認している。
「他に、パイロットがいたか?」
 新しいクルーが合流したとは聞いていない。
 そんなことを考えていたからだろうか。
 センサーが着弾を告げてくる。
「ちっ!」
 いったいいつの間に、と心の中で呟く。
 だが、一撃をくわえることも出来ずに自分が負けたことは事実のようだ。しかも、今までの最短時間で、と言うことも否定できない。
「本当に誰なんだ、あれは」
 忌々しそうにアスランはストライクをにらみつける。
『ストライク、イージス、共にヴェサリウスに着艦を』
 そんな彼の耳に、こんな指示が届く。
「了解」
 これで、相手が誰なのかがわかる。そう思いながらアスランは機体の向きを変えた。

 目の前の光景に、イザーク達は言葉も出せないようだった。
「……流石、と言っていいのか?」
 クルーゼの隣にいたカガリがこう問いかけてくる。実際に動いているMSを初めて見た彼女にしてみれば、キラの技量がどれだけ優れているものなのか。判断の基準がないのだろう。
「凄いのですわ。アスランはあれでも、彼等の中でトップだったと聞いています」
 そのアスランが手も足も出せなかった。それだけで、少なくとも彼等よりは実力が上だと言うことになるのではないか。ラクスがそう言い返している。
「何よりも、キラは機体の不具合を修正しながらの戦闘でしょう?」
 どちらがより困難な状況での戦闘なのか。十分推測できるのではないか。
 そこまで言い切るラクスも流石だと言わざるを得ない。実際、この言葉を耳にしたイザーク達の彼女に向ける視線が代わってきている。
「お前な。そう言うことはアスランの前でやれよ」
 そうすれば、あいつも少しは認識を改めるのかもしれないぞ……と言うカガリの言葉に、思わず頷きそうになってしまう。
「とりあえず、デッキに移動しようかね」
 ミゲルが先に言っているとはいえ、ストライクのパイロットが《キラ》だとわかった瞬間、アスランが何をしでかすかわからない。
 もちろん、整備クルーは無条件でキラを守ろうとするだろう。しかし、直接戦闘に関わる訓練を受けているアスランにかなうはずがないのは明白だ。
「そうだな。あのバカを止めないといけないだろうし」
 言葉とともにカガリが指を鳴らす。
「そうされると、指が太くなりますわよ?」
 だから、やめた方がいいのではないか。ラクスが苦笑と共に彼女の行為をとがめる。
「別に構わないさ。お前なら困るだろうが、私の場合は誰も気にしない」
 そもそも気にするような奴は選ばない、とカガリは笑う。
「……何か間違っているような気もしますが……カガリさんがかまわないとおっしゃるのでしたらいいことにしましょう」
 彼女の様子に、ラクスも素直に引き下がった。あるいは、ここで口論をして時間を潰してはまずいと思ったのかもしれない。
「それよりも、キラの顔が見たいですわ」
 ラクスはさりげなく移動を促す。
「そうだな」
 ついでにアスランの悔しそうな顔も是非と見なければ。カガリのこの言葉を合図にイザーク達も動き出す。
 彼等のそんな様子に、アデス達が笑いをこらえているのがわかった。



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