ある意味、物騒とも言える会話を終え、とりあえず無難と思える会話に移行したときだ。いきなり、クルーゼの前の端末が自己主張を始める。
「……何かあったのかな?」
 そう言いながら、彼は手早く仮面を身につけた。そして、端末へと手を伸ばす。
「私だ」
 そのまま、問いかけの言葉を口にする。
『ミゲルです。キラに用があるのですが……構いませんか?』
 そうすれば、こんな言葉が返ってきた。
「キラに? なら、今そちらに……」
『ご迷惑でなければ、そちらで。ラクス嬢もおいででしょう?』
 だが、ミゲルの口からでたこのセリフに、思わず眉根を寄せてしまう。
「……わたくしも、ですか?」
 さらに二人の会話が聞こえていたらしいラクスが、こう言って首をかしげている。
「僕だけなら理由はわかるけど……何で、ラクスも?」
 キラにも理由がわからないらしい。同じように首をかしげている。
 だが、カガリは違ったようだ。
「お前とラクスがセットというなら、あのバカのことに決まっているだろう」
 平然とこう告げる。
「あぁ、そうですね。存在そのものを忘れておりました」
 それに対し、ラクスはこういう。
「ラクス……」
「だって、わたくしにして見れば彼よりもあなたとカガリさんに会えた方が嬉しいことですわ」
 アスランとの婚約は、あくまでも義務でしかない。だから、と彼女は続ける。
「でも、友人は違います。わたくしがわたくしの力で手に入れたものですもの」
 どちらを優先するか、と言ったことは言うまでもないだろう。そう言って微笑むラクスに、キラは言い返せないようだ。
「ともかく、入りなさい」
 どちらにしても、迂闊な人間に聞かれると困ることだろう。だから、とクルーゼは入室の許可を与える。
「失礼します」
 即座に、彼が足を踏み入れてきた。
「どうしたの、ミゲル」
 自分に用事があると言われたからだろう。キラがこう問いかけた。
「まぁ、ストライクのことなんだけどな」
 建前は、と苦笑と共に彼は言い返す。
「……あれのOSなら、渡したよね」
 そして、明日テストをすることになっていたのではないか。キラはさらに言葉を重ねる。
「それを聞いて、アスランが模擬戦闘をしてくれと言ってきた」
 まだそこまでなれてないのにな、とミゲルはため息を吐く。
「要するに、それでそいつに勝って自分の印象をよくしようと考えているわけだ、あのバカは」
 まったく、ガキでもやらないぞ、そんなこと……とカガリが吐き捨てるように言った。
「そうですわね。キラはそう言うことでミゲルさんを選ばれたわけではないのでしょう?」
 ラクスも頷いてみせる。
 それが真実なのだとクルーゼも知っていた。しかし、アスランには納得できないのだろう。ならば、と小さな笑みを口元に浮かべる。
「明日のテストの時に、君がストライクを操縦するかね?」
 キラ、とその表情のまま問いかけた。
「僕が、ですか?」
 まさかそう言われるとは思わなかった、と顔に書きながら彼女は聞き返してくる。
「その方がバグがでたときに修正しやすいのではないかな?」
 キラであれば、その場で修正できるだろう。
「ついでに、キラが勝ってしまえばそれに関してはアスランも何も言えなくなるということですか?」
 さすがはミゲルだ。察しがいい。
「そう言うことだ。キラの技量は落ちていないようだからね」
 もちろん、戦場に絶対はない。だから、傍でフォローをするものは必要だろう。
「もし、キラが負けてもアスランの言動であれこれ言えるよな」
 その可能性は低いだろうが、とカガリも頷く。
「どちらにしろ、この状況でそのようなことを言い出すようでは本当にバカとしか言いようがありません。徹底的に叩きつぶすしかありませんわね」
 さらにラクスまでもがこういった。
 女性陣のこの言動になれていないのだろう。ミゲルは既に逃げ腰だ。それでも、頑張って踏みとどまっているのはキラのためではないか。
「そう言うことだからね。頑張りなさい、キラ」
 必要なら、自分が久々にシミュレーションに付き合うが? とクルーゼは問いかける。
「なら、隊長の手を煩わせることはありません。俺が付き合います」
 即座にミゲルがこう言ってきた。
「確かに、隊長にはまだまだ勝てませんが……それでも、アスランに負けない自信はありますから」
 この言葉に、クルーゼは頷いてみせる。
「そのあたりの判断は君に任せる。キラもいいね」
「わかりました」
 素直に頷く彼女に柔らかな笑みを浮かべた。



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最遊釈厄伝