「本当に、お久しぶりですわ、カガリ」
 そう言いながらラクスは柔らかな笑みを浮かべている。その表情だけを見れば、まさしくか弱いと言っていいだろう。
 しかし、実際は違う。
 はっきり言って、彼女ほど強い人間はいない、とキラは知っていた。
「確かに。もっとも、こんなところで会いたくはなかったがな」
 できれば、オーブ本土かプラントのお互いの邸か、公的な場での再会が好ましかったのに……とカガリはため息を吐く。
 ここは、ヴェサリウスのクルーゼの執務室だ。アスランを完全にシャットアウトできる場所、と言うことでここが選ばれたのだが……本当にいいのだろうか、とキラは思う。
 しかし、本人が何も言わないからいいことにしておいた方がいいのだろうか。
 そんなことを気にすることなく、二人は会話を重ねていく。
「まぁ、早ければ早いほど、いいんだろうがな」
 あのバカの思いこみを叩きつぶすには、と彼女は続けた。
「そんなに酷いんですの?」
 ラクスが眉根を寄せながら問いかけている。
「未だに未練たらたらだ」
 まぁ、キラの側に近づける予定はないがな……とカガリは笑う。
「そいつはもちろん、他の連中もこちらの味方だ。だから、あのバカが混乱に乗じて予想外の行動に出なければ、大丈夫だろう」
 普段は、自分がキラと一緒にいるしな……と彼女は続けた。
「……僕は保護者が必要な歳じゃないと思うんだけど……」
 キラは思わずそう言ってしまう。
「気持ちはわかるが……あれはゴキブリ並にしつこいからな」
 今だって、隙あれば何をしでかしてくれるかわからない。実際、キラがあちらで作業をしているとき、無意味にうろついている姿が目撃されているそうだ……とカガリは言い返してきた。
「……誰から聞いたの?」
 彼女はガモフにいていなかっただろう、とキラは言外に問いかける。
「ニコルと言ったか? 若草色の髪の奴」
 あいつが色々と教えてくれる、とカガリは言い返す。いい奴だな、と付け加えられた言葉に、何と言い返せばいいのか。
「……いつの間に……」
「お前と違って、私には時間があったからな」
 それに、と彼女は笑みを深める。
「男と女では、どちらの味方をするか。普通は決まり切っているだろう?」
 そう言うものではないだろう。そう思いたい。
「当然ですわ」
 ラクスがカガリの主張に同意をするように頷く。
「女性を守るのは男として最低限の義務ですもの」
 それに、と彼女は微笑む。
「ニコル様でしたら、確実にアスランを止めてくださいます。いい人選ですわ」
 さらに彼女はこう付け加えた。
「知り合いなの?」
 何か怖いものを感じながら、キラは問いかける。
「あの方のピアノは素晴らしいものですわ。ですから、何度かジョイントをさせていただきましたの」
 気も合いましたし……と付け加えられた瞬間、カガリまでもが微妙な表情を作った。
「ですから、安心して協力をお願いしてよろしいかと」
 しっかりととどめを刺してください、とラクスは笑う。
「でなければ、きっと、よからぬことをしてくれますわ」
 アスランは、と彼女は直ぐに表情を引き締めると告げる。
「最悪、キセイジジツを作ってしまえば……などと言い出しかねません」
 いくらアスランでも、そこまでするだろうか……とキラは思う。だが、カガリはラクスの言葉に頷いて見せた。
「だよな。あいつならやりかねない」
 もっとも、とカガリは付け加える。
「そんなことをしようとしたら、遠慮なくちょん切ってやる」
 潰してもいいけどな、と彼女は平然と口にした。その瞬間、傍で話を聞いていたクルーゼがいやそうな表情をしていたのは、同じ男だからだろうか。
「……カガリ……」
 流石にそれは、とキラは口にする。
「何言っているんだ。私だからその程度ですむんだぞ」
 あの人が出てきたら、と彼女は付け加えた。
「……アスランの命に関わるだろうね」
 さらりとクルーゼが口を挟んでくる。
「だが、カガリ。女性がそんなことを口にしてはいけないよ」
 はしたないと思われるからね、と言葉を重ねたのは、自分が聞きたくないからだろう。
「わかりました。でも……」
「彼が実行に移したときは、遠慮しなくていいよ」
 隊をまとめるものとして、そんなことを言っていいのだろうか。
「……隊長……」
「これは、君の保護者としてのセリフだよ」
 だから、隊とは関係ないね……と微笑む。
「もっとも、隊長としてみれば、君とミゲルとアスランでは比べものにならないが」
 だから、気にすることはない。そう言われても納得していいものかどうかと悩む。
「そうですわ。婚約者であるわたくしも認めますもの」
 しかし、にっこりと微笑みながらラクスにそう言われてはそうせざるを得ないんではないか。
「……アスランだけにしておいてね」
 仕方がなく、キラはこれだけを口にした。



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