ヴェサリウスのデッキ内が騒がしい。
 それは、ミゲル達が帰ってきたからだけではない。彼等があるものを持ち帰ったからだ。
 人が一人乗り込むのが精一杯の、小さな救命ポッド。
「あれに、ラクスが乗っているのか?」
 アスランはそれをにらみつけながら小さな声でこう呟く。
「だといいがな」
 でなければ、もう一度一から探さなければならないぞ、とディアッカが言い返してくる。
「しかし、バグさえでなければな」
 自分もでられたのに、と彼は少しだけ悔しそうだ。
「まぁ、いいか。後でお嬢ちゃんになおしてもらうし」
 あのバグは、どこか根本的なところと繋がっている。自分が下手に手を出すと厄介なこことになりかねない。
「彼女にかかっちゃ、一瞬で修正されることなんだけどな」
 本当、凄いよな。そう言うディアッカの表情には以前見たこともないくらい、尊敬の念を抱いている。
「キラは……昔からプログラミングには非凡な才能を見せていたからな」
 もっとも、ここまで凄いとは自分も思わなかった。おそらく、アカデミーで適切な教育を受けた結果、その才能が開花したのだろう。
 しかし、だ。
 自分にはそれを直接確かめることが許されていない。
 側に行くどころか声もかけられない状況では仕方がないのか。
 いったい、何故、クルーゼ達が自分と彼女の関係を邪魔するのか。未だにわからない。
 これがミゲルとカガリだけならばまだ理解できるのだ。
 カガリはあったときから天敵だったし、ミゲルは今、キラと付き合っているという事実がある。だから、自分を邪魔だと思って当然だ。
 だが、クルーゼだけはわからない。
 パトリックの命令だから、と言うこと以上に、自分とキラの間を邪魔してくれているような気がしてならないのだ。同時に、言動の端々にキラ達との親密な様子が感じられる。
「ひょっとして、個人的な知り合いなのか?」
 しかし、自分は彼がキラの知人だと言うことを知らない。三年前までは、彼女の交友関係で知らないことはなかったはずだ。
 だとするならば、その後に知り合ったのか。
 そんな風に、アスランがついつい自分の思考の中に沈んでいたときだ。
「開けます」
 どうやら、チェックが終わったのだろう。キラがつないでいたケーブルを外しながらこういう。
 何故、パイロットである彼女がそんなことまでしなければいけないのだろうか。他に適任者がいるだろう。
 心の中だけでそう呟いたはずだった。
「ラクス嬢が乗っている可能性があるから、隊長も配慮したんだろうな」
 しかし、しっかりと口に出していたらしい。ディアッカが苦笑と共にこう言ってくる。
「そうでなくても、やはり一番最初に見るのは女性の方が嬉しいものではありませんか?」
 ここにいたんですか、といいながら歩み寄ってきたニコルがそう告げる。
「……ニコル」
「ダメじゃないですか。やっぱり、前の方にいないと」
 ラクスはアスランの婚約者なんだから、と彼は続けた。
「……だが、キラがいるぞ」
 いいのか? とわざとらしく問いかけてみる。
「大丈夫でしょう。僕だけじゃなくディアッカもいますし……何よりも、カガリさんがキラさんの側にいます」
 また同じ目に遭うだけだ、と言外に彼は告げてきた。
「いつの間に……」
「って言うか、何で?」
「ご友人だそうですよ、ラクスさんと」
 本当に、どうやってそんな情報を入手してくるのか。相変わらず侮れないな、とアスランは心の中で呟く。
 同時に、彼があちら側に着いてしまったのはいたい、と思う。
 もし、自分側に着いていてくれればどれだけ楽だっただろうか。
「しかし、あいつって何者?」
 どうやったら、ラクスとナチュラルのカガリが知り合えるのか。ディアッカはそう呟く。
「カガリは……あれでもオーブの有力氏族の一員だと聞いている。だから、その関係じゃないか?」
 家名までは聞いていないが、とアスランは顔をしかめた。そう言えば、自分は彼女のことをよく知らない。同じように、キラのことでも知らないことが多い。
 ひょっとして、それは知らないのではなく知らされなかったのか。アスランは初めてその事実に気が付く。
 その時だ。
「あらあらあら。お久しぶりですわ、キラ。それにカガリも」
 お会いできて嬉しい。そう言うラクスの声が周囲に響いた。



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