何故、キラに声をかけるどころか近づくことすら出来ないのか。アスランは、その事実にいらだたしさを禁じ得ない。
 気が付いたら、自分以外の者が結託をしていたのだ。
 それなのに、と思いながら視線を移動させる。そこではニコルがキラに何かを問いかけている姿が確認できた。
「……何故、だ?」
 どうして、自分にはあの笑顔を向けられないのだろうか。
「俺だけの、ものだったのに」
 確かに、たまに来るカガリ達にも向けられていた。だが、それは彼女たちが親戚だから仕方がない。そう妥協できる程度の余裕も持てていたのだ。
 しかし、今の自分にはそれがない。
 三年ぶりにあったキラは、自分が想像していた姿とまったく違っている。
 それだけならば、まだ我慢できたかもしれない。
「ミゲルと付き合っているなんて……」
 確かにミゲルはいい人間だと思う。
 面倒見はいいし、実力もある。はっきり言って、彼が《紅》を身に纏っていない方がおかしいくらいだ。
 だが、それだけ彼の同期が優秀だったと言うことだろう。
 実際、その中の数人の名は、自分も何度も耳にしている。
 しかし、その中に《キラ》がいたとは予想もしていなかった。そして、そのころから二人はお互いに好意を抱いていたのだ、とも聞いた。
「あの時、キラが離れていかなければ……」
 自分がその立場だったかもしれない。
 いや、父をはじめとする者達が反対をしただろうか。あるいは、と続ける。
「最初から、父上はキラの性別について、何か情報を持っていたのかもしれないな」
 あるいは母だろうか。
 どちらにしても、自分の周囲にいる者達は自分がキラと親しくしていることが気に入らないらしい。
 だから、ラクスとの婚約も早々に決めてしまったのだろうか。
「……ラクスがいなくなってくれれば……」
 ひょっとして、キラを手に入れることが可能になるのだろうか……と考えてしまう。
「可能性はあるな」
 もちろん、それを公然と口にすることははばかられる。そんなことをすれば、完全にキラは自分の手の届かないところに行ってしまうだろう。
 だが、心の中で呟くことは許されるのではないか。
「……貴方は嫌いではありませんよ、ラクス・クライン」
 それでも、自分がキラを手に入れるための障害になるならば、排除するだけだ。
 しかし、そのためにはどうすればいいのだろうか。
「……大丈夫。時間はある」
 あれだけ一緒にいたのだから、キラだって、障害がなくなれば自分を選んでくれるに決まっている。アスランはそう信じていた。

 キラは手を止めると小さなため息を吐いた。
「どうかしましたか?」
 ニコルが即座に問いかけてくる。
「アスランの機体のOSは大丈夫なのかなって、そう思っただけ」
 なのに、確認することも出来ないから……とキラは続けた。
「それは仕方がないと思いますよ」
 ニコルは苦笑と共に言い返してくる。
「アスランの執念深さは嫌と言うほど見せつけられましたから。キラさんの方が立場が上とわかっていても、無視しかねません」
 そうなったら、カガリが彼を殺しかねない。
「刃傷沙汰はいやですから」
 そうでなくても、ミゲルとの仲が悪化しかねないから……と彼は続ける。
「そうだね」
 確かに、それは隊としてまずい。特に、クルーゼ隊では致命的ではないか。
 もっとも、クルーゼがミゲルとアスランのどちらを選ぶか。キラには想像が付いていた。だからこそ、厄介なのかもしれない。
「ラクスさんが見つかれば、きっと、アスランも落ち着くと思いますが……」
 それまでは、とニコルは告げる。
「ラクスが来てくれれば、きっとなんとかしてくれるか」
 アスランだけではなく、カガリのことも押さえてくれるだろう。他力本願かもしれないが、そう思わずにはいられない。
「そうですよ」
 ニコルはそう言って笑ってくれた。
「……きっと、そうだね」
 キラもとりあえず納得したことにする。
「ところで、ニコル君」
 だから、意識を切り替えて呼びかけた。
「なんですか?」
 即座に彼は表情を引き締める。
「この機体の特性には気付いている?」
「一応は……ですが、切り替えの部分がうまくいかなくて」
「……それに関しては、僕の方で作ってしまってもいいならやってしまうけど。どうする?」
 本来であれば、彼に全てを任せてしまった方がいいのだろう。しかし、何かいやな予感がするのだ。だから、こう問いかける。
「お願いします」
 即座にニコルがこう言ってきた。それにキラは頷く。
「なら、もう少しここを貸してね」
 今、終わらせてしまうから……とそのまま付け加えた。
「傍で見ていて構いませんか?」
 気になるようなら離れているが、とニコルが続ける。
「大丈夫。黙っていてさえくれれば、気にならないから」
「わかりました」
 彼の言葉を聞くと同時に、キラはキーボードをたたき出した。



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