あっさりとアスランを沈めて満足したのだろうか。カガリは満面の笑みと共にキラへと近づいてきた。
「……やりすぎじゃない?」
 ちょっと、とキラが問いかけている。
「ふん。あの程度で壊れるような奴じゃないだろう?」
 壊れるようなら、その程度だったと言うことだ……とカガリは平然と言い捨てた。
「それよりも、そいつ、昔より弱くなったんじゃないのか?」
 この言葉を本人が聞いたらどう思うだろうか。
「と言うより……カガリが強くなりすぎたんじゃないの?」
 キラが真顔でそう言い返している。
「そうか? 普通だろう、このくらい」
 いや、普通じゃないから。少なくとも、ナチュラルでは……とミゲルは心の中でつっこむ。
 そもそも、その理屈で言えば、彼女よりキラやアスランの方が強くなっていけなければいけないのではないか。
 だが、現実問題としてアスランは床に伸びている。
「……あの方はどなたでしょう」
 そんなことを考えていれば、ニコルのこの言葉が耳に届いた。
「どう見ても、女性だよな」
 昔は凹凸に乏しかった体も、離れている間にさらに丸みをましたようだ。だから、どう見ても《少年》には見えない。
「しかも《紅》だと?」
 イザークが彼女が身に纏っている軍服の色に驚きを隠せないようだ。
「あぁ。君達は会うのが初めてだったね」
 もっとも、話は聞いたことがあるだろうが……とクルーゼは笑う。
「彼女が《キラ・ヤマト》だ」
 クルーゼ隊の要の一人。プログラムの天才と言われている、と彼は続けた。
「……隊長……」
「事実だろう、キラ。君が作ったOSが、現在、ザフトのMSを動かしている。キラが地球軍のマザーをハッキングしたおかげで、ユニウスセブンへの攻撃も防ぐことが出来た」
 今回のことも、キラが情報を入手してくれたからこそ成功したようなものだろう。そう言って彼は笑う。
「そうそう。俺らの機体も、キラがメインになってカスタムしてくれたしな」
 言葉とともにミゲルはキラの肩に手を回す。そして、自分の方へと引き寄せた。
「ついでに、こいつが《紅》なのは事実だぞ。少なくとも、情報処理とMSの操縦に関してはダントツだった」
 特に、後者に関しては彼女が自分たちの教官のようなものだったし……とそう付け加える。
「見た目だけで判断するなよ?」
 もっとも、そんなことをすれば、自分たちの同期がただではすませないはずだ。こう言いながら後輩達をにらみつける。
「で、二人の関係は?」
 ディアッカが即座に問いかけてきた。どうやら、しっかりとキラに目をつけていたらしい。
「一応、公認の仲?」
 それに、キラは首をかしげながら言葉を返している。そのまま、彼女は同意を求めるようにミゲルを見上げてきた。
「そう言うこと。だから、ちょっかい出すなよ?」
 くすくすと笑いながら頷いてみせる。
「……そんなこと、するか……」
 ぼそっとイザークがこう言った。
 だが、かなりの衝撃を受けているだろうことはその表情からもわかった。
「で、アスランとその方の関係は?」
 やはり、彼は侮れない。そう思わせるのは、もちろんニコルだ。
「幼なじみ、かな?」
 とりあえず、とキラは口にする。
「それも間違っていないが……今はただのストーカーだろう?」
 さらりとカガリが爆弾発言をしてくれた。
「カガリ……」
 たしなめるようにキラが彼女の名を呼ぶ。
「ラクスがそう言っていたぞ」
 しかし、彼女は最大の免罪符といえるセリフを口にする。
「……ラクスが?」
「そうだ」
 だから、間違っていないはずだ。そう言って、彼女は胸を張る。
「それに関しては、否定できないね」
 さらにクルーゼが頷いて見せた。
「あのまま放っておいたら、無体なことをしてくれただろう。今も、自制が出来ないようだしね」
 その言葉を耳にした瞬間、イザーク達は何かを思い出したかのような表情を作る。
「そう言うことだからね。出来るだけ、アスランがキラに近づくのを邪魔してくれるかな?」
 本人の意志を無視してとんでもないことをしてくれそうだ。そう言うクルーゼに三人は頷いてみせる。
「あぁ。自分たちの機体のOSのことで困ったら、キラに相談するといい。後、最後の機体はミゲルに任せる」
 もっとも、OSはキラに頼むことになるが……とクルーゼは微笑んだ。
「後は……ラクス嬢の捜索だが、今ある機体でミゲル達に頼もう」
 いいね、と彼は続ける。それに、カガリを除いた者達は頷いて見せた。



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