「失礼します」 アスランの言葉とともにドアのロックが外される。それを確認して、彼が中に踏み込んだ瞬間だ。 「……ぐっ」 側頭部に衝撃を感じる。 予想外のそれにアスランは、為す術もなく壁際まで吹き飛ばされた。 「何だ、お前は」 ディアッカが怒りの声を上げるのが聞こえる。 「構わないよ。彼はそれだけのことをしたのだからね」 しかし、それをあっさりとクルーゼの声が打ち砕く。 「隊長……」 「私が許可を出した。それでは不満かな?」 逆にこう聞き返されて誰もが言葉を失っている。しかし、それは何なのか……とアスランとしては言いたい。だが、その余裕もないというのが事実だ。 「ミゲル」 それでもなんとかしようと思ったのか。ニコルが彼に呼びかけてくる。 「諦めろ。って言うか、理由を聞いちまった今は、俺もぶん殴りたいところだが……流石にまずそうだしな」 第一、ミゲルは続けた。 「不意打ちとはいえ、ナチュラルの、しかもお嬢さんにやられてるバカを応援したくないしな」 「ナチュラル!」 誰が、と言外に問いかけている。 「カガリは、間違いなくナチュラルだよ」 クルーゼが笑いながらミゲルの言葉を裏付けていた。しかも、彼の言葉から相手がようやく認識できる。 「ついでに幼なじみだ。そして、彼は彼女を激怒させることをしてくれたのでね」 今回はそれを見過ごせなかった。だから許可を出した……と彼は続けた。 だから、自分が何をしたのか。 それとも、と思うがますます攻撃が鋭さを増してくる。気に入らない相手だが、下手にケガをさせればキラに何を言われるかわからない。 だから、倒すなら一撃で……と思う。しかし、未だに反撃の糸口すら見いだせないのが悔しい。 「って言うか……本当に《ナチュラル》なんですか?」 彼女、とディアッカが問いかけている。 「間違いなく、ね」 楽しげな声音でクルーゼが言葉を返しているのがわかった。 「ナチュラルの中にも、まれにコーディネイターに負けないどころか、それ以上の才能を見せるものがいる。彼女もその中の一人だ、と言うだけだよ」 昔から、アスランとは犬猿の仲だったようだが……と彼は続ける。 「こいつがあれこれ馬鹿なことをしでかしてくれたからな」 カガリには言葉を返す余裕があるのか。その事実に、アスランも舌を巻くしかない。 「特に、私の従妹に対する言動は許し難いものがあった」 このバカのせいで、行動を制限されていた。そのせいで、こいつ以外の友人を作ることも出来なかったからな……と彼女は言葉を重ねる。 「……従妹さん、ですか?」 カガリの口調から同年代だと判断したのだろう。ニコルが聞き返している。 「あぁ、第一世代だからおかしくはないだろう」 その答えに、彼等は言葉を失ったようだ。 それも当然だろう。 自分たちと同年代と言えば、第二世代がほとんどだ。ナチュラルでこれほどの身体能力を持っている相手よりも珍しい、と思えるのかもしれない。 「そこにいるだろう?」 さらりとカガリが告げる。 「……えっ?」 その言葉に、アスランは反射的にキラの姿を探してしまう。 直ぐにミゲルの陰に隠れるようにして立っている小柄な人影に気が付いた。 だが、その人影が身に纏っている軍服の色を見た瞬間、全ての動きが止まる。 「……紅……」 嘘だろう、と思わず呟いてしまう。 その瞬間、隙ができたのだろうか。 「キラは、いつまでもお前の庇護という名の独占欲が必要な存在じゃない!」 言葉とともにカガリの遠慮のないかかと落としが後頭部に決まる。 次の瞬間、彼の意識は闇に吸い込まれてしまった。 |