ようやく、と言うべきか。アスラン達はブリッジから解放された。
「……隊長が戻っていらっしゃったと言うことでしょうか」
 それとも、とニコルが首をかしげる。
「少なくとも、ミゲルは帰ってきているらしいが」
 キラはどうしたのだろうか。アスランは心の中でそう呟く。ただの民間人なのであれば、まだあちらの船に留め置かれているのか、と付け加える。
 それならば自分の権限で何とかなるのではないか。
 ならば、きっと、キラは自分の隣に戻ってきてくれる。そう考えていた。
 そんな彼の耳に、自分を含む四人を呼び出す放送が届く。
「と言うことは、隊長が戻ってこられたと言うことか」
 イザークがこういう。
「だろうな」
 とりあえず、行くか……とディアッカも頷く。それには、アスランもニコルも異存はない。むしろ、何故あんなことをしたのか問いただしたい、とアスラン自身は考えている。
「行きますか?」
 ニコルがこう声をかけてきた。
「あぁ」
 不本意でも命令である以上行かないわけにはいかない。
 だが、クルーゼの所へ行けばキラのことがわかるか可能性がある。
 そう考えて、アスランは頷く。
「じゃ、行きますか」
 この言葉を合図に、彼等は移動を開始した。

 室内の空気が不穏だ。
 しかし、その発生源――と言っていいのだろうか――はこの部屋の主ではない。その隣にいる、キラによく似た少女だ。
 おそらく、クルーゼもキラも、この空気になれているのだろう。あえて何かを言うつもりはないらしい。だが、ミゲルとしては居心地がわるいの一言だ。
 その理由の一つに、出会い頭に思い切り腹を殴られたこともあることは否定しない。
 しかし、それもキラを大切にしているからだ……と言うのがわかったので、あえて報復はしないことにした。そして、それが正解だったらしい。
「……カガリ……」
 ため息混じりにキラが彼女に呼びかける。
「何だ?」
「そんな空気を垂れ流していると、ばれるよ」
 そう言う問題なのか。そう言いたい。
「確かに。ここまで垂れ流しではね」
 くすくすと笑いながらクルーゼがキラに同意をする。それも何なのだろうか。そう思うが、彼がそう言う性格だと言うこともよくわかっている。いや、彼の性格になんしてはとうの昔にさじを投げたと言うべきか。
「それはまずいな」
 だが、カガリは二人の言葉にあっさりとまずい空気を収める。
「それで失敗しては意味がない」
 もっとも、口調その他は変わっていないが。
「……それはいいのですが、ラクス嬢のことはどうされるおつもりですか?」
「もちろん、捜索させるよ。ただ、その前に邪魔者は徹底的に叩きつぶしておかないとね」
 馬鹿な思いこみで任務を邪魔されては困る。クルーゼはそう言い返した。
「あれですか?」
「あぁ。アデスに任せておいて正解だったね」
 本当に自分の指示を無視するとは思わなかったが……と彼は続ける。だが、と笑みに淡く侮蔑の色を滲ませた。その笑みの怖さを知っているミゲルは、反射的に半歩下がってしまった。
 もっとも、それを咎めようとするものはこの場にはいない。
「作戦が終了し、とりあえず、後始末になるまで我慢したのは成長というのかね」
 それ以上に怖い疑問が投げつけられたからだ。
「……まぁ、どちらにしても徹底的にやらせてもらうだけだが」
 にやりと笑いながらカガリが言い返す。
「もちろん、構わないよ。ついでに、他の者達も止めて上げよう」
 だから、存分にやりたまえ……とクルーゼはクルーゼで笑い返した。
「……とりあえず、ラクスの捜索に支障が出ないようにしてね」
 キラのこのセリフも耳に入っているのかどうか。それを確かめる気力はミゲルにはなかった。
 しかも、タイミングがいいのか悪いのか。
『アスラン・ザラ以下四名。参りました』
 当人が入室の許可を求めてくる。
 その瞬間、カガリがどのような表情を作ったのか。思い出したくもないミゲルだった。



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