きびすを返すと、そのままブリッジを飛び出そうとする。
「……えっ?」
 しかし、アスランの目の前のドアは開く気配を見せない。
「残念だが、隊長が戻られるまで、そこはロックしてある」
 その彼の背中に向かって、アデスがそう声を投げつけた。
「……何故……」
 忌々しそうに振り向きながら、アスランが聞き返す。
「君の今の行動で答えが出たのではないかな?」
 アスラン達に与えられた命令は、あくまでも待機だ。
 しかし、今、アスランはクルーゼの許可がないのにブリッジからでようとした。それは、命令違反と受け取られても仕方がない行為ではないか。アデスはさらにこう付け加える。
「確かに戦闘は終わっている。しかし、まだ全ての事態が収拾したわけではない」
 そして、アスランがそれに関わることで混乱をきたす可能性がある。
「違うのかな?」
 まるで断定するかのようにアデスが問いかけてきた。
「……ですが、自分の行動を艦長が制限することと、それとは別問題だと思いますが?」
 キラのことはアデスには関係ないはずだ。それなのに何故、と心の中で付け加える。
「同じ事だよ。少なくとも、君よりも私の方が先任だ。本国で、しかも軍とは関係ない場であればともかく、ここは私が預かっている艦の内部だ。クルーゼ隊長の命令以外は、私に決定権がある」
 そして、クルーゼの命令は『アスラン達をブリッジから出すな』だ。
「命令を遂行するために、適切な判断をしただけだと認識しているが?」
 それとも間違ってると言いたいのか。そう言いながら、アデスはアスランではなく他の者達へと確認を求めている。
「……ブリッジで待機、とは確かに言われたな」
「隊長のお言葉は、命令と同じだ、と言うのも事実だろう」
 イザークとディアッカは直ぐにアデスの言葉が正しいと口にした。
「そんなに、ラクス嬢のことが心配なのですか?」
 ニコルはニコルで首をかしげながらこういう。
 そう言えば、彼女が乗った船が行方不明だという連絡が入っていたな……とアスランは直ぐに思い出す。
 個人的に言えば、彼女がどうなろうと気にならない。婚約にしても、親が強引に決めたことであって、自分の意志はかかわっていないのだ。
 それに、もし、キラが本当に女の子であるのなら、ラクスの存在はない方がありがたい。
 もちろん、だからといって積極的に同行できないことも事実だ。自分には《ザラ》の家に生まれた義務があることもわかっている。
 それでも失えない存在というものがある、とパトリックが理解してくれていれば、状況は変わったのではないだろうか。
「大丈夫ですよ。今回のことが終われば、すぐに捜索にでられます」
 余計な戦闘を行うこともなくなったから、とニコルは微笑んだ。どうやら、黙ってしまったアスランの態度から、勝手に結論を出してくれたらしい。
「確かに。貴様は気に入らないが、ラクス嬢を探すことには問題はない」
 むしろ、積極的に関わらせて貰おう……と口にするイザークの隣でディアッカも頷いている。
「とりあえず、隊長が戻られてからだ」
 既に、他の隊から捜索がでているはず。だから、こちらの体制が整う前に見つかる可能性もある。
 そう言いながらも、アデスの視線が和らぐ様子はない。逆に厳しくなっているような気がするのはアスランの錯覚ではないだろう。
 それはどうしてなのか。
 いや、そもそもどうしてクルーゼはそんな指示を出したのだろう。
「……わかりました」
 ひょっとして、彼もまた自分からキラを引き離そうとしているのだろうか。
 しかし、そうすることのメリットが彼にはあるのかどうかはわからない。
 一番考えられるのは、パトリックからの指示だと言うことだろう。
 だが、今は大人しくしているしかない。
 手の届くところまでキラが来ているかもしれないのに。
 どうして、今の自分には父や他の者達の手から飛び出せるだけの権力がないのか。そうの事実にアスランは唇を噛む。
「ミゲル機、帰還しました」
 そんな彼の耳に、CICからの報告が入ってきた。



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