「……姫君二人?」
 クルーゼの指示に従い、ミゲルはゆっくりとキラが乗り込んでいるであろう機体にジンを近づけながら呟く。
「一人はキラだろうが……もう一人、いるのか?」
 一緒に行った連中だろうか。しかし、どうしてそのものがキラと一緒に籠城することになるのだろう。
「あるいは……オーブの民間人、かもしれないな」
 彼女は普通の学生として暮らしていたはず。何かの事情で、その時の友達がこの艦に連れ込まれた可能性は否定できない。
 だとするならば、キラに迂闊な行動を取らせたくないというクルーゼの気持ちも理解できる。
 そう考えながら、そっと機体の装甲に、ジンのマニピュレーターを触れさせた。そうすれば、周囲に聞かれることなく相手と会話が出来る。
「中にいる奴。聞こえるな?」
 その方が色々と都合がいいだろう。そう思いながら呼びかけた。
『ミゲル?』
 しかし、予想に反してキラは即座に彼の名を呼び返す。と言うことは、傍にいるのはキラの立場を知っている人間と言うことか。
「よかった、無事だったようだな」
 それが誰なのか。それを確認するよりも先にこんなセリフがこぼれ落ちた。
『だって、約束したでしょう』
 返された言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
「そうだったな」
 確かに約束をした、とミゲルはさらに笑みを深めながら言い返す。
『それよりも、僕たちはどうすればいいの?』
 待機という指示しかでてないのだが、と不安そうな声で問いかけてくる。
「あぁ。そのまま中で大人しくしていろ。俺が機体ごと運ぶから」
 その方が、後々いいだろうし……と彼は続けた。
『わかった。でも、他のパーツは?』
「直ぐに他の連中が来る」
 連中に任せるさ、とミゲルは告げる。
「その前に、お前がそのデーターをまとめていてくれると嬉しいが」
 そうすれば、時間が短縮できるだろう。何よりも、連中がごまかそうとしているのがわかるはずだ。
『うん。わかった』
 それくらいなら直ぐだから、帰る前に作るね……とキラは明るい口調で続けた。
「頼む。それと、少し揺れるぞ」
 持ち上げるからな、と付け加えながら、ジンの位置を変える。そのまま、慎重にその機体を持ち上げた。
『カガリ……ちゃんと掴まっていないと、頭をぶつけるよ?』
『わかっている!』
 その瞬間、こんな会話が響いてくる。その口調から、かなり親しい相手なのではないか。そう判断をした。
 同時に、どんな相手なのだろう……と興味がわいてくる。
 だが、ヴェサリウスに着けば、いやでも顔を拝めるだろう。だから、後でもいいか。そう心の中で呟いた。
「そう言えば」
 ヴェサリウスからついついいやな連想をしてしまう。
「……アスランが、いるぞ」
 いきなり顔を合わせるよりも事前に知らせておいた方がいいのではないか。そう判断をしてミゲルは口を開く。
『アスラン……?』
 嘘、とキラが続ける。
「本当だって。何やら切れかけているから要注意な」
 今も、いつ飛びだしてくるかわからない。そう続けた。
『……何で……』
 訳がわからない、とキラは続ける。その気持ちはよくわかる、とミゲルも頷く。
『アスラン……とは、アスラン・ザラのことか?』
 そんな二人の言葉に、カガリの声が割り込んでくる。
 平然とフルネームを口にすることは、カガリと呼ばれた少女も彼と知り合いだと言うことか。
「そうだ」
 しかし、どこか剣呑な響きが含まれているような気がする。
『そうか、そうか』
 楽しげな声音でカガリは続けた。
『そいつを殴るのは後だな。まずは、アスランを一発ぶん殴らないと』
『カガリ!』
『いいんだよ。ラクスの許可は貰ってある』
 楽しみだな、と彼女は笑った。
「……こりゃ、とんでもない人間を拾ったか?」
 そうされるだけのことをアスランがやらかしたのだろうが、とミゲルはため息を吐く。
「とりあえず、キラを連れて安全圏まで避難だな」
 それが一番いい。そう結論を出すと、ジンを外へと移動させ始めた。



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