フラガが出撃しようとしているからか――あるいは、キラにこれが動かせるはずがないと思っているからか――整備クルーの意識は既に二人にはなかった。
「まぁ、その方が楽でいいけど」
 今くみ上げたばかりのOSを確認しながらキラは呟く。
「逃げ出すのか?」
 そんな彼女の手元をのぞき込みながらカガリが問いかけてくる。
「とりあえず、出撃の時には、クルーはこの場から離れるはずだから」
 その時に、とキラは付け加えた。
「本当は、あそこにあるバックパックも貰っていきたい所なんだけど……今は逃げ出すことを優先した方がいいかな?」
 そう言いながらキラは周囲の様子を見回す。
「しかし、これの装甲は凄いけど……起動しちゃうと一発でばれちゃうっていうのがね」
 普段は色を失っている。しかし、起動した瞬間、これは鮮やかな色を纏う。
 逆に言えば、起動させてしまえば目立つと言うことだ。
「……適当に触っていたら起動してしまったといういいわけは使えないのか?」
「難しいと思うよ。かなり複雑な手順を踏むことになるから」
 本来であれば、とキラは笑う。
「まぁ、適当に簡素化しちゃったんだけどね、今」
 今、と付け加える。
「……お前は……」
 その瞬間、カガリがあきれたように言葉を口にした。
「それに何故か、待機の指示がでている」
 何を考えているのか、とキラは顔をしかめる。
「待機?」
「そう。新型の中で……と言っているから、穴でも空けるつもりなのかな」
 船体に、とキラは付け加えた。
「そうなったら、どうなるんだ?」
 整備クルーは、とカガリは問いかける。
「……吸い出されるかな?」
 もっとも、クルーゼのことだ。きちんと救出をするのではないか。それでも、失われる命があるだろうことが否定できない。
「……戦争、だからね……」
 辛そうな口調でキラは言葉を返した。
「そうだな……今は、戦時中だったな……」
 忘れていた、とカガリはため息を吐く。
「オーブが平和だから忘れていた」
 その間か彼女は言葉を唇に乗せる。
「それはオーブの選択の結果だから、いいと思うよ。でも、カガリは忘れちゃダメだと思う」
 カガリはアスハなのだから、とキラは視線を向けた。
「……あぁ。わかっている」
 だから、それを確かめるために本土を離れたのだった。しかし、とカガリは眉根を寄せる。
「だが……本当にはわかっていなかったのかもしれないな」
 戦場というのがどんなものなのか、と彼女はそのまま続けた。
「……そうだね……」
 キラは呟くように言葉を返す。その時だ。
「何?」
 今にもカタパルトを飛び出そうとしたメビウス・ゼロがその動きを止める。
「……まさか……」
 代わりにデッキから侵入をしてきたのは見覚えがある機体だ。
「そう言うことをする!」
 キラの叫びが狭いコクピット内に響き渡る。
「……あんなこと、できるのかよ!」
 カガリのこの言葉に言葉を返すことが出来なかった。



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最遊釈厄伝