「隊長!」
「来たか」
 クルーゼが満足そうに頷いている。
 いったい、何が届いたというのだろうか。アスランはそう思いながらクルーゼの横顔を見つめる。
「ミゲルに合図を」
 そろそろ終わりにしよう。そう言いながら、優雅とも言える仕草で立ち上がった。
「彼等の機体のロックは?」
 そのまま、傍にいたアデスにこう問いかけている。
「ご心配なく」
 にやりと笑いながら、彼は言葉を返す。
「では、行ってくる」
 言葉とともに彼は身を翻した。
「……隊長自ら出撃されるのか?」
 驚いたようにイザークが呟く。
「よく見ているのだな。我が隊が、何故、ザフトでも最高と言われているのか。その理由をこれから見ることが出来るだろう」
 その上で、自分たちに何が足りないのかを確認すればいい。アデスがそう言ってくる。
「……俺たちに足りないもの?」
 なんなんだ、それは……とディアッカが呟く。
「俺に聞くな、俺に」
 即座にイザークが言葉を返す。
「……とりあえず、隊長が出撃されるのは初めてですから、その動きを拝見させて頂きましょう」
 それから考えても遅くはないのではないか。ニコルがなだめるように言葉を投げかける。
「そうだな」
 口ではそう言い返しながらも、アスランは別のことを考えていた。
 クルーゼは何故か、自分たちの機体のロックを確認していた。それはどうしてなのか。考えなくても答えは一つしかないだろう。
「そんなに、俺たちに飛び出されると困る、と言うことか」
 正確には自分一人だろう。
 何故、そこまで……と思う。
「やはり、あいつが関係しているからか?」
 だから、邪魔させたくないのか。アスランは口の中だけでそう呟く。
「アスラン?」
 どうかしましたか? とニコルが問いかけてくる。
「隊長が出撃されるとは、どれだけ地球軍の新型が重要視されているんだろうな、と思っただけだ」
 本当のことは言えない。だから、と無難な言葉を返した。
「……僕たちが奪取してきた機体の性能を見れば、それも納得できますが……」
 問題なのは、それだけの技術をどうしてオーブが提供したかではないか。ニコルはこう問いかけてきた。
「オーブの首長家の問題だろうな、それは」
 アスハやサハクはまだいい。しかし、セイランは……とアスランは眉根を寄せる。
 同時に、ある人物のことを思い出してしまった。
 まさかと思うが、今回のことにあれが絡んでいるのではないだろうか。だとするならば、かなり厄介なことになる。
 しかし、キラが関わっているとどこからともなく現れるのだ、あれは。
 ただでさえ厄介な状況なのに、と心の中で吐き捨てる。
「シグーだ」
 不意に、視界をオフホワイトの機体が横切っていく。虚空では目立つその色の機体が誰のものか、確認しなくてもわかった。
「……どのような行動を取られるのか。じっくりと確認させて頂こう」
 イザークが視線をそらすことなくこう告げる。
「そうだな」
 ディアッカが頷いた。
 そんな彼等を横目に見ながら、なんとか自分も出撃できないか。そして、キラと接触できないか。アスランはそんなことを考えてしまう。
 戦闘中はまずい。
 だが、全てが終わった後ならば許されるのではないか。
「……キラ……」
 会いたい、とアスランは呟いていた。



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最遊釈厄伝