「ゼロは出撃せるのか?」
 フラガがこう叫んだ。それに、整備クルーの視線が向けられている。
「……今なら、あれに近づけるかな」
 キラが視線を動かすことなくこう口にした。
「おそらくな」
 だが、とカガリは付け加える。
「一息に行かないと止められるぞ」
 連中の方が人数が多い。だから、彼女は顔をしかめる。
「……今度揺れたら、それを利用するよ」
 それで流されたことにすればいい。キラはそう囁き返す。
「なるほど。タイミングを合わせれば、勢いも付くか」
「そう言うこと」
 それに、自分たちはただの民間人と言うことになっている。だから、それが一番、疑いをもたれずにあれに近づけるのではないか。
「だったら、フラガの言葉に表面上従った方が楽じゃなかったか?」
 ふっと、カガリが疑問を口にする。
「……それも考えたけど……あの人がまだ地球軍にいるつもりなら、あれこれ、疑われるような行動はしない方がいいのかなって思っただけ」
 でないと、後で困ることにならないだろうか。そう考えたのだ……と続ける。
「確かに、な」
 あいつが何を考えているのか。自分も聞かされていない。カガリはそう囁き返してくる。と言うことは、やはりオーブ関係者なのだろう。しかも、クルーゼ達と近しい関係の、とキラは判断をする。
 その時だ。
 船体が大きく揺れる。
「うわっ!」
 予想もしていなかったそれに、カガリが声を上げた。
 反射的に、キラは彼女の体を抱きしめる。
 そのまま、方向を確認して思い切り床を蹴った。
「……おい! 嬢ちゃん達!!」
 慌てたような声が追いかけてくる。
「止めてください!」
 どうしたらいいのかわかりません、とキラは言い返す。
「無重力には慣れてないんだよ!」
 カガリもまた焦ったような口調でこう叫ぶ。
「そんなこと言っても……」
 そのスピードでは、と助けを求めるように視線を彷徨わせているのがわかった。
「嬢ちゃん達! なんでもいいから、掴まれるものを探せ!」
 フラガの声が耳に届く。
「わかりました」
 こう言い返しながらも、キラはさりげなく機体との距離を測る。
 後少し。
 そう判断をして、手を伸ばした。
 彼女の手が放置されていた新型のハッチを掴む。
 その瞬間だ。
 まるでそれを見ていたかのように、デッキ内の空気が排出されていく。
「……何だ?」
 慌てたようにカガリがこう問いかけてくる。
「多分、船体のどこかに穴が空いたんだと思う」
 こう言いながら、キラは強引に体の向きを変えた。そのまま、コクピットの中へと体を滑り込ませていく。
「……直ぐに止まると思うけど……」
 だが、これで彼等の意識をそちらに集めることが出来る。だから、多少無理をしても大丈夫だ……とキラは言い返した。
「……あの人達は?」
「ノーマルスーツを着ているから大丈夫」
 自分たちの方がまずい。そう言いながら、キラは手早くハッチを閉じる。
「後は……外にいる味方に合図を送れば、大丈夫かな」
 多少手荒なことをされても、自分たちに被害は及ばないから。キラはそう告げると同時にシートに腰を下ろす。そして、OSを書き換えるためにシートの下からキーボードを引っ張り出した。



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