目標を視認できる距離まで近づく。しかし、問題はここから先だ。
「下手に近づけない、って言うのは辛いな」
 撃墜するのであれば、全速で接近してブリッジなりエンジンなりを破壊して離脱すればいい。
 もちろん、正確に当てなくてもいいのだ。
 相手にどれだけの被害が出ようとも構わない。むしろ、被害が大きい方がいいのだ。
 しかし、今回はそうはいかない。
「……キラがどこにいるのか。それがわからないからな」
 攻撃をした場所に本人がいる可能性だってある。
 だが、とミゲルは直ぐに思い直す。
 キラはあれでも《紅》だ。
 このような状況で自分がどうこう道をすればいいのか、よくわかっているはず。
「それに……約束したしな」
 かならず帰ってくると、とそっと付け加える。
 そのための手助けをしてやるのは、やはり、男として当然のことだろう。そう考えたときだ。
「……失敗したら、嫌われるか?」
 ついついいやな予感というのがわき上がってくる。心臓のあたりが痛くなってしまったのは、そのせいではない、と思いたい。
「キラは、そう言う人間じゃないから」
 大丈夫だよな、と胸を押さえながらこう呟く。
「って言うか、そもそも、俺は待つことになれてないんだよ」
 むしろ、さっさと突っ走って事態を終わらせる方が性に合っている。そんな自分がこうして大人しくしているから、あれこれ余計なことを考えてしまうのではないか。
「さっさとしかけてくれないかな」
 クルーゼがしかけることで相手の注意をひくことになっているのに、とミゲルはため息を吐く。
「それとも、何か厄介ごとでも持ち上がったのか?」
 あちらに、と眉根を寄せた。
 その可能性は十分にあり得る。あのオコサマが自分の立場に納得していたとは思えないのだ。
「……本当、さっさと帰って来いよな」
 ため息とともにまた呟く。
 その時だ。
 虚空をまばゆい光か切り裂く。
 間違いなく、ヴェサリウスの主砲だろう。
「始まったな」
 おそらく、キラにもそれが伝わっているはずだ。
「ねらいはブリッジだ。エンジンには手を出すな」
 ミゲルはそう叫ぶ。そして、そのまま修理が終わったばかりのカスタムジンをデブリの影から発進させた。

「……拉致されている同胞を救うだけにしては、ずいぶん大がかりですね」
 目の前の光景を見つめていたニコルがこう呟く。
「ニコル?」
 どういう意味だ、とディアッカが聞き返している。
「その方は、オーブの民間人なんですよね?」
 ニコルは逆に彼に疑問をぶつけた。
「……多分、なって……あぁ、そう言うことか」
 察しがいいディアッカはニコルが何を言いたいのか直ぐにわかったようだ。しかし、アスランには意味がわからない。
「何が、そう言うことなんだ?」
 今一人。イザークも意味がわからなかったようだ。そう言うところで気があっても嬉しくないと思ってしまう。
「オーブは中立だろう? そんな国の民間人だ。いくらコーディネイターだと言っても、無体なことが出来るのか?」
 国際問題になるのではないか。そして、どちらに不利に働くかと言えば間違いなく地球軍にだろう。
「コーディネイターとは言っても、女の子なんだろう?」
 同情がどちらに集まるかわかりきっているではないか。
「それなのに、ミゲル達が救出に行ったんですよね?」
 と言うことは、その少女に何か秘密があるのではないか。そう考えたのだ、とニコルは告げる。
「言われてみれば納得なんだが……」
 その秘密とはなんなのか。その答えを求めるかのように誰もがクルーゼへと視線を向ける。
 だが、彼はただ静かに戦場を見つめているだけだった。
 その口元から、彼は今は何も教えてくれる気がないのだと言うこともわかってしまう。その事実がとても歯がゆく思えるアスランだった。



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