艦内の混乱が伝わってくる。
「カガリ?」
 その瞬間、キラは彼女に呼びかけた。
「わかっている」
 逃げ出すんだな? と彼女は笑いながら頷く。
「とりあえず、デッキまで移動だね」
 そこまで行けば何とでもなる。キラはそう言って微笑む。
「絶対に僕から離れないで」
 その表情のまま、こう付け加える。
「わかってるって」
 そう言って彼女が歩み寄ってきたときだ。いきなりドアが開く。反射的に、キラは不安そうな表情を作ってカガリに抱きついていた。
「お、いたな」
 そう言いながら入ってきたのはフラガだ。
「なんの用事だ?」
 即座にカガリがこう問いかける。
「いや。まじで戦闘になりそうだからな。お嬢ちゃんに最後のお願いに来たわけ」
 そう言いながら、わざとらしい仕草をみせた。それになんの意図があるのか、と不審そうに見つめる。
「お断りします。何と言われても、絶対に地球軍には協力しません」
 だからといって、黙って話を聞く気にもなれない。そう考えて、先に釘を刺しておく。
「そう言われてもなぁ」
 わざとらしいため息とともにフラガは言葉を口にする。
「こっちとしても、あっさりと撃墜されるのだけはごめんだしなぁ」
 言葉とともに、彼は意味ありげにカガリへと視線を向けた。それは、彼女から何かを引き出そうとしているようにも見える。
 あるいは、とキラは心の中で呟く。
 彼は、オーブと何か関係があるのかもしれない。
「なら、さっさと降伏信号をあげればいかがですか?」
 条約がある以上、それに則った対処をされるはず。もっとも、居心地が悪い思いをするのは仕方がないかもしれないが。キラはそう告げる。
「だけどなぁ……」
 しかし、納得できないというようにフラガはため息を吐いた。
「でなければ、僕たちを救難ポッドで放り出してくれませんか? オーブの識別信号付きで」
 そうすれば、あちらが拾ってくれるだろう。そちらの方が安全にオーブに帰してもらえるのではないか。
「そうだな。その方が色々と楽だろうな」
 カガリもこう言って頷いてみせる。しかし、彼女の指が、先ほどのフラガと同じような動きをしているのに、キラは気付いた。
 やはり、二人は知り合いなのか。
 そんなことを考えながら、相手の顔を見つめる。そうすれば、どこか見覚えがあるような気がしてならない。と言うよりも、自分にとって近しい存在の者達によく似ている。
 そう言えば、とあることを思いだしてしまう。
 その瞬間、叫び出さなかった自分をほめてやりたい、とキラは心の中で呟いた。
「それも無理だな……」
 個人的にはそうしてやった方がいいかもしれないが……と真面目な口調を作りつつも、彼は意味ありげにウインクをして見せた。そんな二つの表情を同時に出来るとは、本当に器用な相手だと思う。
「まぁ、とりあえずデッキまで付き合ってくれ」
 その後のことはその時だ。フラガはそう付け加える。
「協力しませんよ」
 たとえ、その場に行っても……とキラは言い返す。
 もっとも、デッキに行ければ、あの機体を乗っ取ることは難しくない。逆に言えば、デッキに行くことが問題だったのだ。
「……本当、強情だね、お前さんは」
 誰の影響だか、とフラガは苦笑を浮かべる。
「どちらにしても、デッキなら俺がフォローしやすいからな」
 ブリッジだとうるさい奴がいるが、と彼はその表情のまま付け加えた。それが誰のことを指しているのか、もちろんわかっている。
「キラ?」
「……仕方がないですね。デッキまではお付き合いしますよ」
 その後は勝手にさせてもらうが。キラは言外に付け加える。
「上等」
 言葉とともに、フラガは二人の肩に手を置く。そして、自分の方へと引き寄せた。



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最遊釈厄伝