「いいか? 船は沈めるなよ?」 ミゲルはオロール達に念を押す。 「わかってるって。お嬢がいるんだろう?」 彼女が命を落とすようなことになれば、どれだけ後悔しても足りない。第一、自分たちも彼女にまた会いたいのだ。そう言って二人は笑う。 「しかし……俺たちだけか?」 マシューが不意にこう問いかけてきた。 「オコサマ達はあいつの顔を知らないからな」 ザフトの制服を着ているならばともかく、今のキラは民間人を装っているはずだ。万が一の可能性は否定出来ない。 「それに、あいつらが本気になった俺たちに付き合えると思うか?」 実力という意味ではなく、とミゲルは続ける。 「あぁ、確かに」 フォーメーションのこととかあるしな、とオロールは頷く。 「お嬢ならともかく、あいつらじゃな」 逆にフォーメーションを壊してくれかねない、とマシューも納得したようだ。 「今回の目的は、あれを沈めることじゃないからな」 キラが無事に脱出できるよう、注意をひくことがメインだし……とミゲルは笑う。 「連中に隙さえ作ってしまえば、あいつは必ず帰ってくるさ」 キラはあれでも《紅》だからな、と続ける。 もちろん、心配がないわけではない。 彼女は一度も実戦に出たことがないのだ。個人的に、その判断は間違っていたとは思わない。しかし、それがこんなところで不安に繋がるとは思わなかった。 それでも、絶対にキラは自分の元に帰ってくる。 不慣れなら、それをフォローするのが自分の役目ではないか。そのために、自分は今まで努力をしてきたのだ。直ぐにそう思い直す。 「しかし、オコサマ達が大人しくしているかね?」 不意にオロールがこんなセリフを口にする。 「あぁ……それは言えるな」 だが、マシューも何かを思い出したかのように頷いていた。 その瞬間、ミゲルの脳裏にある人物の面影が浮かぶ。確かに、あれが道動くか、不安だ。しかし、とミゲルは思う。 「隊長がなんとかするだろう」 彼の指示を無視するようならば、それはそれで問題だ。 「だよな」 クルーゼに任せておけば心配はない。オロールがそう言って笑う。 もちろん、全員が心の中で考えていたのは別のことだ。 「と言うことで、準備をするか」 ミゲルのこの言葉に他の二人も動き出す。その時にはもう、他の厄介ごとは全て消えていた。 「大丈夫。絶対に、俺が助け出してやるから」 それよりも、今考えなければいけないのは愛おしい少女を無事にじぶんのもとに連れ返すこと。その他のことはその後で考えればいい。そう考えながら、ミゲルは自分の機体へ向かって移動を開始していた。 何故、自分たちが待機なのだろうか。 クルーゼの背後からモニターを見つめながら、アスランは心の中で呟く。 「……撃墜、ではないのですか?」 彼とは反対側の位置にいたイザークがこう問いかけている。 「あの艦に民間人が拉致されているようだからね」 それに、クルーゼは言葉を返す。 「オーブから、できれば保護をして欲しいという依頼が来ていると言われているそうだよ」 だから、撃墜は考えられない。きっぱりとした口調で付け加える彼に、イザーク達は驚きを隠せないようだ。 「それに……どうせなら、あの新鋭艦もこちらの手に収めておきたい」 その方が色々と都合買いだろうからね。そう言ってクルーゼは笑う。 「なら、何故、自分たちが待機なのでしょうか」 アスランは一番問いかけたかった事実を口にする。 「簡単なことだよ。君達が入ることで、彼等のフォーメーションに不協和音が生じてはいけない。ただそれだけだ」 彼等三人のフォーメーションがどれだけ素晴らしいものなのか。それは見なければわからないだろう。そう言ってクルーゼは笑う。 「君達に足りないものが何か。それでわかるだろうね」 その笑みが、何故か自分をあざ笑っているような気がしてならない。 しかし、それを口にすることも出来ない。 アスランは、ただ、忌々しさに唇をかみしめるのが精一杯だった。 そのころ、本国ではまた別の問題が持ち上がっていたのだが、それが彼等の元までもたらされるまで、今しばらくの時間が必要だった。 |