ちいさなと息を漏らすと、キラはキーボードから手を放す。
「キラ?」
 それに気が付いたのだろう。筋トレをしていたカガリがその動きを止める。
「なんとか、連絡は取れたみたい」
 そんな彼女に向かってキラは微笑みを向けた。
「後は……タイミングを見計らってここから逃げ出すだけ」
 ついでに、この艦も動かないようにしてしまおうか。そう言いながら首をかしげる。
「……無駄な戦闘はない方がいいからな」
 カガリもそれに頷いてみせる。
「あいつらも、多分、悪い奴じゃないんだ。ただ、地球軍で学んだことが真実だと思っている。自分たちの常識が正しいと信じている。それだけだ」
 そんなことで、世界が平和になるはずがないのに……と彼女はため息を吐く。
「プラントも、そうだしね」
 穏健派と強硬派で争っているらしい。
 あるいは、自分の報告も、その争いにまぎれてクルーゼの元に届いていなかったのではないか。
「ともかく、君のことは僕が守るから」
 だから、絶対に側から離れないでくれ。言外にそう付け加える。
 それにカガリは頷いて見せた。
「多分、生身ならお前より私の方が強いと思うぞ」
 それでもこう付け加えなければいけないのは、間違いなく彼女の性格のせいだろう。
 守られるよりも守る方を選びたい。
 それは、彼女が彼女の《父》から受け継いだものだ。もっとも、今の彼女では身近な存在を守ることも怪しいのではないか。
 だが、それはこれから経験を積めば何とでもなるだろう。
「わかっているけどね。でも、君の立場を考えると、ここで下手に地球軍と争わない方がいいと思うんだ」
 自分は、既に期待している立場だし……とキラは苦笑と共に付け加える。
「……キラ……」
「気にしないで。自分で選んだことだし……一人じゃないから」
 支えてくれる人もいるから、と続けた。
「……それが気に入らないんだが……」
 あの二人ならば我慢する。しかし、自分の知らない人間がキラの側にいるのは……とカガリは眉根を寄せた。
「あいつの例もあるしな」
 そのまま、吐き捨てるように口にする。
「……それは、きっと、一緒にいる時間が長かったからだよ」
 そして、自分以外の友達がいなかったからだ。だから、とキラはため息を吐く。
「でも、別れてから三年だし……解消されたんじゃない、かな?」
 少しは、と付け加える。しかし、その口調は弱々しい。キラ自身、そうではないとわかっていたのだ。
「それはないな」
 彼女の気持ちを代弁するかのようにカガリがきっぱりと断言した。
「あいつのお前に対する執着は、もう病気を通り越している」
 だからこそ、キラはアカデミーに入ることになったのではないか。彼女はそうも続けた。
「今だって、かなり問題らしいぞ」
 自信ありげなその言葉には何か根拠があるのだろうか。
「……誰からの情報?」
 だから、素直にこう問いかける。
「決まっているだろう。ラクスだ」
 ある意味、予想もしていなかった相手の名前にキラは目を丸くした。
「ラクス?」
「あぁ。以前の親善使節で来たんだ」
 その時に知り合った、と彼女は続ける。
「……そう、なんだ」
 確かに、彼女たちであればその可能性はあった。でも、それが真実になるとある意味怖い。
「プラントに行けば、きっと、あいつに会えるな」
 その時には遠慮なく殴らせて貰おう。そう言ってカガリは笑った。
「……お手柔らかに」
 国際問題にならない程度に、とキラはため息とともに言い返す。
「殺さなければ、ラクスが何とでもフォローしてくれると言っていたぞ」
 しかし、カガリの言葉にキラは頭を抱えるしかできなかった。



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