「お断りします」
 キラはきっぱりと言い切った。
「なっ!」
 それに、信じられないというようにラミアスとバジルールは絶句している。ただ一人、フラガだけは納得したというように頷いていた。
「僕はオーブの人間です。戦争に関わることは、引き受けるつもりはありません」
 言い聞かせるように、キラは再度口を開く。
「それが許されると思っているのか?」
 ようやく衝撃から抜け出したのか。バジルールが怒りを滲ませた声音で問いかけてくる。
「許されますよ。僕はオーブの人間ですから」
 戦争に関わりたくない。
 いや、どちらの種族とも仲良くしていたい。
 だから中立でいたい。
 そう思って、自分たちはオーブという国の国民であることを選んだのだ。それを否定することは誰にも出来ない。
「たとえ、それが地球軍であろうともです。それとも、あなた方はオーブの理念を否定して、その矛先を我々にも向けるおつもりですか?」
 彼女の怒りを無視して、キラはそう聞き返す。
「そんな勝手なことを! 自分たちさえ平和ならば、それでいいのか?」
 世界は戦争に包まれているのに、とバジルールは言い返してくる。
「いけませんか?」
 戦争に関わりたくない。その選択をしただけだ。
「それとも、地球軍の理念を受け入れられない国は、全て《悪》ですか?」
「だとするなら、オーブもそうだな」
 あきれたようにカガリも口を開く。
「お前達のセリフは、他国に対する侵略行為……と言えるぞ」
 その国の理念を力ずくで翻させようとしているのだから。彼女はさらに言葉を重ねる。
「でも、この状況なのよ?」
 そんな甘いことを、とラミアスが反論の言葉を口にしようとした。
「その状況に強引に巻き込んだのは誰だ?」
 自分たちはヘリオポリスの構造についてよく知っている。貴様らに強引に連れてこられなければ、無事にシェルターに避難できた。カガリは平然と言い返す。
「それに……ご存じないかもしれませんが、僕はコーディネイターですよ?」
 その自分に同胞殺しを強要するのか、とキラは問いかける。
「なんだと!」
「おかしいことではない。オーブではナチュラルもコーディネイターも同等だ。確かに人口的には少ないかもしれないが、いないわけではない」
 そして、それについてどうこう言う人間はオーブにはいない。カガリはきっぱりと口にする。
「……なら、何故プラントに行かない?」
「一応、これでも第一世代ですから」
 どうと言うことはないようにキラは口にした。
「もっとも、ナチュラルであったとしても地球軍には絶対に協力しません」
 たとえ、この命を落とすようなことがあっても……とさらに言葉を続ける。
「僕にはその権利も、理由もありますから」
「そうだな。私にもある」
 二人のこのセリフに、フラガは微かに眉を動かした。
「……そんなもの!」
 どうせ些細なことだろう、と口にしたのはバジルールだ。彼女は典型的な地球軍の軍人思考だな、とキラは思う。同時に怒りがわき上がってくる。
「些細なこと? そうおっしゃるなら、僕の両親を返してください! 今すぐに」
 彼女のセリフは、キラの中のトラウマを思い切りえぐってくれたのだ。
「……ご両親を?」
 それが何か関係あるのか。そう言いたげにラミアスが聞き返してくる。
「十二年前。コペルニクス」
 吐き捨てるように単語だけ並べた。だが、それだけで彼女たちにはキラが何を言いたいのかわかったようだ。
「僕の両親はナチュラルでした。地球軍のミスで死んだ僕の両親のことを『些細なこと』と言いきった地球軍を、僕は一生許しません! あなた方に協力するくらいなら、ザフトの方が百倍もマシです!」
 少なくとも、彼等は誰かの死を『些細なこと』とは言わない。
「ここで僕を殺しますか? それならばそれでもいいですよ。ただし、その結果、オーブとの関係がどうなっても知りませんけどね」
 オーブは自国の人間を大切にする。それが才能があるものならばなおさらだ。
「オーブは技術立国だからな」
 カガリもまた頷いてみせる。
 しかし、それに対し、目の前の三人からの返答は何も返ってこなかった。



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