クルーゼの呼び出しが何なのか。 「ものすごく嫌な予感がするんだが」 この状況で呼び出されると言うことは、絶対に緊急事態に決まっている。そう思いながらミゲルは壁を蹴った。あまり好ましい行動ではないが、この方が早く移動できるのだ。 普段ならば見とがめられるこの行動も、戦場であれば許される。 特に、イレギュラーにより混乱が持たされた後であれば、なおさらだ。 そんなことを考えながら、ミゲルは先を急ぐ。 「それに、キラが関わっていなきゃ、いいんだが……」 本来は、今回の襲撃と共に彼女たちは戻ってくる手はずになっていた。しかし、未だに帰還の報告がない。 自分たちの関係を知っている者達であれば、無条件で教えてくれるはずなのに、だ。 「誰も教えてくれないと言うことは、まだ帰ってきてないってことなんだろうな」 だからこそ、不安を隠しきれない。 しかし、それをあのオコサマ連中の前で見せられないと言うことも事実だ。 「本当、厄介だよな」 小さなため息を吐くと同時に、目の前にクルーゼの執務室のドアが見える。目的がそこなのだからそれ自体は当然のことだ。 「アスラン?」 何故、彼がここにいるのか。 彼等には、奪取してきた機体のOSを、とりあえずでも使えるようにしろと命じてあったはず。そして、彼に限って白旗を揚げるわけがないと信じていた。 だとするならば、別の理由だろうか。 そんなことを考えつつも、ミゲルは無意識のうちに動きを止めた。そして、アスランの視界に入らないようにと物陰に隠れる。 アスランにも何か気がかりなことがあるのか。まったく周囲の様子が目に入っていないようではあったが。 どこか苛立ちを隠せないという様子で彼はミゲルがいる場所とは反対方向へと移動していく。 「何があったんだ?」 別に隊長に怒られるようなことはしていないだろうに。心の中でそう呟きながら、ミゲルはドアの前へと移動した。 「ミゲルです」 端末へ向かってこう呼びかける。 『入りたまえ』 即座にクルーゼの言葉が返ってきた。しかし、その声が疲れているような気がするのは錯覚だろうか。 「失礼します」 言葉とともに中に踏み込む。 「何かありましたか?」 仮面に隠されているものの、付き合いの長さからミゲルは彼がうんざりとした表情を浮かべているのがわかった。 「……キラが、あちらに拉致されたらしくてね」 それに関しては想定の範囲内だが、とクルーゼはため息を吐く。 「キラが?」 ひょっとして、と頬が引きつる。 「心配いらないよ。あの子がザフトの一員だとばれたわけではない」 クルーゼはうっすらと笑みを浮かべながらこういった。 「第一、あの子のIDの偽装は、そう簡単に見破られない。戦場からの照会であればなおさらだ」 だから、そちらに関してはなんの心配もいらない。彼はそう続ける。 「もっとも、もう一つの理由の方が厄介だろうがな」 キラの才能に目をつけた、と言うことだろう。その言葉に、ミゲルは頭を抱えたくなる。 「だから『手を抜け』って言ったのに」 ただでさえ、コーディネイターと言うだけで目立つのに、とミゲルはため息を吐く。 「まぁ、仕方がないだろうね」 手を抜いたとしても、キラの才能は群を抜いている。ナチュラルの中であればなおさらだ。クルーゼはそう告げる。 「だが、マイナス面だけではない。あちらに残された機体を、あの子が持ち帰ってくれるだろうからね」 後は、そのフォローが出来るようにしておくだけだ。そう言われて、ミゲルは頷く。 「ところで、アスランは何をしに?」 先ほど、ドアの前にいるのを見たが……とミゲルは水を向ける。 「あの子が拉致されるシーンを目撃したらしい」 救出に行かせてくれ、とうるさかった……とクルーゼは苦笑と共に言葉を返してきた。 「そんなことをしようとすれば、あの子の足を引っ張るだけだ、と言うのに」 しかも《キラ》と確信しているわけではないらしいのだ。 「……あの機体が使い物にならなければ、意味がないですからね」 だが、あの調子ではこちらの制止を振り切ってでも飛びだしていくのではないか。 「それに関しては、私の方でなんとかしよう」 ミゲルはなんとかキラと連絡を取って欲しい。それは一番難しいことだ。だが、キラがシステムに接触できれば何とでもなるはず。 「わかりました」 何よりも、キラの無事を確認したい。 そう思いながら頷いて見せた。 |