「キラ……大丈夫か?」
 その声に引っ張られるように、意識が現実へと引き戻された。
「……カガリ?」
 何故、彼女がここにいるのか。そう思いながら無意識に周囲へと視線を彷徨わせる。次の瞬間、キラは飛び起きようとした。
「まだねていろ!」
 そんな彼女を、カガリは押し戻す。
「ここはお前が考えているとおりの場所だ」
 困ったことに、と彼女はため息を吐く。
「何で……」
 自分は、まだわかる。
 あの時、自分は地球軍の手に残されたらしいMSへと連れ戻されたのだ。だが、ある意味それは都合がいい。いざとなれば、それを奪取してザフトへと戻ればいいだけのことである。
 しかし、カガリは……と唇を噛む。
「……みんなは?」
 とりあえず、と言うようにこう問いかける。
「大丈夫だ。彼等は、シェルターの中だ」
 ただ、とカガリはため息を吐く。
「定員がいっぱいでな。私は他の場所に移動しようと思ったんだ」
 いざとなれば、オーブ軍に合流すればいい。そう考えていた、と彼女は続ける。
「その途中で、ここに連れ込まれてな」
 まぁ、あいつが責任を取ってくれるというからいいのか。この言葉に、誰か知り合いが関わっているらしいとわかった。
 それでも、だ。
「……あっちは、カガリのこと、知っているの?」
 小声でこう問いかける。
「知らないはずだ」
 少なくとも、自分は告げていない。そう彼女は言葉を返してくる。
「なら……大丈夫なのかな?」
 それとも、とキラが首をかしげたときだ。何の前触れもなくドアが開く。
「気が付いたようね」
 言葉とともに一人の女性士官が室内に足を踏み入れてくる。その行動に、カガリが思いきり顔をしかめた。
「こちらの都合は関係なしか」
 せめて、一呼吸ぐらいおけ……と彼女は口にする。
「着替えている最中だったら、どうするつもりだったんだ?」
 そう言いながら視線を向けた先には、明るい金髪の男性士官の姿があった。
「……あっ」
 流石に、それはまずいと思ったのか。女性士官は目を丸くする。
「……それはこちらのミスだ。申し訳ない」
 即座に謝罪の言葉を口にしたのは、彼女の隣にいた黒髪の女性士官だった。
「だが、こちらも時間がない。話を聞いてもらえないか?」
 話を聞くだけならばいい。だが、それが強要に繋がるだろうことは、今までの経験から知っている。だが、ここで拒むことは難しいだろう。
「話を聞くだけ、でしたら」
 だから、先に釘を刺すようにキラはこう告げた。
 その瞬間、女性士官は怒りに顔を歪ませる。
「まぁ、それは仕方がないな」
 あくまでも、それはこちらの都合だ。そう言ってきたのは、金髪の男性士官の方だ。
「そもそも、何の事前通告もなく連れてきたのはこっちだしな」
 そうだろう、と男性士官は中心にいる女性士官へと視線を向ける。
「オーブの民間人を拉致してきたと言われても、仕方がないよな、ラミアス大尉?」
「……それは否定できませんが……」
 ですが、フラガ大尉……と彼女は言葉を返す。
「これは緊急事態です。甘いことは言っていられないのではないかと」
 ラミアスの代わりに口を開いたのは黒髪の女性士官だ。
「だが、それはこちらの都合だろう? 違うのか、バジルール少尉」
 モルゲンレーテの技術員であれば、百歩譲って許されるかもしれない。だが、そこにいるのはあくまでもただの民間人ではないのか。その言葉に、バジルールは唇を噛む。
「ともかく、話を聞いてもらって……それからだな」
 フラガの言葉に、二人は渋々ながらも頷いている。それに、キラは少しだけ安堵をした。



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