カガリに友人達を任せて、キラは単身でモルゲンレーテの秘密工場へ乗り込んでいた。
「やっぱり……」
 そこでは、ザフトと地球軍の戦闘が繰り広げられている。
 さて、どうしようか。
 キラが心の中で呟いたときだ。
「そこの! ここで何をしている!!」
 モルゲンレーテの人間――あるいは地球軍の軍人かもしれない――が怒鳴るように呼びかけてきた。
「シェルターに!」
 この先にシェルターがあったはずだ。キラはそう言い返す。
「その先には何もない! 別の場所へ行きなさい」
 どうやら、キラがどこからか迷い込んだ子供だと思ったのだろう。相手は少しだけ語調を和らげて指示を口にした。
 彼のその言動から、予想以上に戦闘が激しいのだ……とキラは判断をする。
「ありがとうございます」
 今は自分の存在に疑問を持たれるわけにはいかない。何よりも、彼が本気で心配してくれているのがわかった。だからこう告げる。
 そのまま、体の向きを変えて走り出した。
「何を考えているんだよ、本当に」
 こんな所で戦闘をするなんて、万が一のことが起きたらどう責任を取るつもりなのか。
 何よりも、とキラは顔をしかめる。
「僕の報告が隊長達に届いていないと言うことが現実なんだ」
 それについても、後で調べてもらわなければいけないだろう。
 だが、その前になんとか自軍と合流しなければ。そう思っていたときだ。
「何で」
 いきなり、目の前の通路が消える。既に足を踏み出していたキラは、勢いを殺すことが出来なかった。
 そのまま、下へと落ちていく。
「くっ」
 なんとか体勢を立て直すのが精一杯だった。
 しかし、そこが戦場のまっただ中だとは、予想もしていなかったと言っていい。
 ここに民間人がいるはずがない。そう考えていたのか。ザフトの紅を身に纏った青年がナイフを振り上げた。
 だが、振り下ろす瞬間、その動きを止める。
 いったい、どうしたのだろうか。
 そう考えて、バイザー越しに相手の顔をのぞき込もうとする。
「……キラ?」
 それよりも早く、相手が呟くように言葉を口にした。
「えっ?」
 ザフトの人間である以上、自分の名前を知っている可能性は確かにある。だが、クルーゼ隊の顔見知りに《紅》はいなかったはず。
 そう言えば、今期の新人は全員《紅》だ、とミゲルがぼやいていたような……と首をかしげた。
「本当に、キラ……か?」
 再度、彼はこう告げる。
 その瞬間、キラの心の中に『まさか』という思いがわき上がってきた。
 彼は《アスラン・ザラ》なのだろうか。
 そうだとするならば、どうしてここに……と思う。
 確かに、彼の父親は国防委員長だが……と心の中で付け加える。いや、だからこそなのか。そう続けたときだ。
「あなた! こちらへ!!」
 言葉とともにいきなり腕を引かれる。そのまま、どこかに放り込まれた。
 予期していなかったその衝撃に、受け身を取ることも出来ない。キラの意識は、そのまま闇の中に吸い込まれてしまった。

 ぎくしゃくとした動きで遠ざかっていく機体を見つめながら、アスランは眉間にしわを寄せていた。
「何故、キラがここに……」
 ザフトにいたのではないか。
 それとも、何か理由があるのか。
「第一、何で女性の服を……」
 それが一番気にかかる。そう思ったときだ。
『アスラン! 失敗したのか?』
 通信機からミゲルの声が届く。
「一機……地球軍に確保された……」
 それと、ラスティがケガをしている。そう告げた。
『了解。後はこちらでやる。お前はラスティをつれて、さっさと戻れ』
 即座にこう言い返される。
「なっ!」
『OSに不備がある機体で何が出来る。逆に足手まといになるだけだ』
 きっぱりと言われたセリフは確かに真実かもしれない。しかし、アスランにはアスランの主張があるのだ。
『それに、ラスティを見殺しにするつもりか?』
 ケガをしているのだろう? と言われては引き下がらずにはいられない。
「了解」
 そう言いながらも、どこか釈然としないのは、キラの顔を見てしまったからだろう。
「……キラ……」
 無事でいてくれ。祈るようにこう呟くしかできなかった。



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